第11章 鬼さん、こちら。✔
「蛍ちゃん!」
「こんばんは、後藤さん」
出迎えてくれたのは、仕事は終わっているはずなのにしっかり隠の覆面をしている後藤さん。
訪れた先は柱のような立派な屋敷でなく、長々と横に連なる建物。
此処は隠の人達が使っている隊舎だ。
足を運んだのは実質三度目。
「っと、炎柱、さま?」
「うむ! 夜分に邪魔する! 蛍が此処に用事と聞いて同行した!」
私の隣で腕を組み佇む杏寿郎に、覆面で見えている目元だけがぎょっとしたものに変わる。
柱相手だと緊張する後藤さんだけど、蜜璃ちゃんは大丈夫って前に言ってたし。
杏寿郎も偶に圧はあるけど、根は面倒見よくて優しい人だから。
大丈夫、かな…多分。
「これ、よかったら皆で食べて。おはぎ作ってきたから」
「え? いいのか?」
「うん。前もお世話になったし」
「世話?」
興味を持った顔を杏寿郎がずいっと寄せてくる。
包みを受け取りながら驚いているだろう後藤さんと杏寿郎の間に立って、此処へ来た理由を説明した。
「隠さん達は頻繁に町へ下りることが多いから、偶に食材や日用品の手配を頼んでいるんです。師範だけに頼むのも、大変だろうし」
「よもや! それは初耳だ」
「そんなに頻繁に頼んでる訳じゃないですから。都合が合った時だけ」
それでも提案してくれたのは、後藤さんから。
やっぱり根本が優しい人だなぁと思う。
体が回復した後、面会に来てくれた人達の中に後藤さんもいた。
顔は暗く罪悪感に満ちていて、その理由はすぐにわかった。
きっと仲間である菊池さんのこと。
でも本来私に菊池さんのことは伝わらないようにさせているはずだから、理由は告げずにただただよかったと喜んでくれた。
私が自由に外出できるようになったと知ると、行ってみたかった隠の隊舎にも招いてくれた。
最初は恐々私を見ていた他の隠さん達も、後藤さんと私が気軽に話していることに警戒を緩めてくれたのか、少人数だけど言葉を交してくれる人もできた。
ほんの少しずつだけど、進めているような気がして嬉しい。
だから今日は少しでも何かできればと思って、前に隠さん達が美味しいと言ってくれたおはぎを持ってきた。
食べられる人だけでいいから、喜んでくれればいいな。