第11章 鬼さん、こちら。✔
きらめく金に近い色合いに、毛先に流れるに連れて朱に染まっている不思議な髪。
重力に逆らえるぐらいだから見た目硬そうなんだけど、触ると意外にふわふわしてる。
わしわしと毛先までたおるで拭う合間に、杏寿郎の顔がちらほらと覗く。
その濡れたように光る目と合うとどきりとして、咄嗟に取り繕うように口を開いた。
「お昼ご飯作ってあるから早めに食べてね」
「うむ。ありがとう」
「明日は訓練ない日だから今日起きてた分ゆっくり寝て」
「了解した」
「後は…」
「…ふ、」
「?」
なんだか楽しそうに笑ってるな…たおるがくすぐったくて笑ってる訳じゃ、ないかな?
「蛍は世話を焼くのが上手いな。つい甘えてしまいそうになる」
「そう、かな。ただのお節介とも取れるけど」
「いや。俺には心地良い。妹だと聞いていたが、君が姉のようだ」
「…姉は体が悪くて、よく世話をしていたから…その名残りなのかも」
今更、姉さんの話をする度にいちいち凹んだりしない。
姉さんを失ってからは怒涛のように過ぎた日々。
その中でそれなりに揉まれて這い上がって潰されて生きてきたから。
ただ、自分の中で完全に整理がついた訳でもない。
あの日、天元との実践稽古で体を失った日に見た姉さんの夢から…まだ完全に醒めていないような気が、する。
「そうか…ならばきっと君は自慢の妹だったのだろうな」
「そんなことないよ。姉に比べて、私は愛嬌なんてなかったし。接客もいまいち下手で」
「接客?」
しまった。
思わず口を滑らせてしまったと、たおるを握った手が止まる。
見上げれば、不思議そうに杏寿郎がこちらを見ていた。
「えっと…仕事の話。私、接客業してたから」
「成程。飲食か? 茶店など似合いそうだな」
「まぁ、お茶菓子も出してた、かな」
圧倒的にお酒の方が割合が大きいけど。
興味を持った様子の杏寿郎に、これはまずいと咄嗟に思考を回転させる。
深く話し込んだら墓穴を掘るかもしれない。
話、変えないと。