第11章 鬼さん、こちら。✔
ようやく大人しく向かった背中を見送った後、急いで杏寿郎の寝室へと足を向ける。
せっせと夜が明ける前にと、ふかふかのお布団を押入れから出して敷く。
今更寝ても十分な睡眠は取れないけど、少しでも布団で寝た方が体は回復する。
それは私自身、人間の時に経験済だ。
寝室の用意を終えた後は、再び最初の台所へ。
朝食の用意は不要だから昼食の用意をする。
と言っても杏寿郎は私に三食も作らせられないと変に気遣って断ってきたから、じゃあ以前杏寿郎が食べていたものと同じものを作るということで了承を得た。
「今日はなんにしようかな…白身魚がまだ残ってたから、ほぐして具にしよう」
お昼は、杏寿郎も馴染んだ握り飯。
だけどちゃんと毎日具材も変えるし、おかずも偶に付けるから飽きはしないはず。
毎日白い塩おむすびばかり食べてた杏寿郎が、飽きるとも思わないけど…どうせなら美味しいと思って欲しいし。
残っていた白身魚を手早く焼いて、熱々のうちに箸でほぐす。
淡白な白身だから酢醤油で味を付けて、一緒に青じそを刻んで、それと…あ、あった炒りごま。
私の家と違って炎柱邸は求めればそれなりに食材は手に入るから。
色んな味が作れて、料理は割と楽しい。
その三つを合わせて大きなおむすびを幾つか握る。
あとはもう一つ、以前作っておいた味噌だれを白おむすびに塗る。
それをさっき魚を焼いた網で表面を炙る感じで…いい匂いがしてきた。
焼き味噌おにぎりができたら、杏寿郎が切っておいてくれた葱を乗せて…うん。
「美味しそう」
思わず声に出してしまうくらいには。
食べられないけど、鼻は利くから。
この分なら、味に外れはないかな。
…なんだか、お腹が減った。
「蛍」
お腹を擦っていれば後ろから呼ばれた。
振り返れば、いつもの見慣れた隊服じゃなく寝間着浴衣に着替えた杏寿郎が廊下に立っていた。
「上がった。君も入れ」
落ち着いた深い紺色の、すっきりと大人びた浴衣姿。
炎柱邸でお泊まり会をした時は炎の模様の入った寝間着を出していたから、そんな普通の寝間着もあるんだと初めて見た時は驚いた。
でもきっと一番驚いたのは、その…