第11章 鬼さん、こちら。✔
──────────
「も…休憩、しよう…きょじゅろ…」
「どうした!? まだ初歩の初歩しか学んでいないぞ! 呼吸の型の道理のみ!!」
や、一夜で炎の呼吸の道理覚えただけでも凄いから。
褒めて。私、褒められて伸びるから。
どうぞ褒めて。
全集中を一瞬も途切れさせずに、実践混じりの炎の呼吸の連打。
できてもできなくても次々急かされて、数刻後には全身汗だくで息切れしていた。
ぜいぜいと息継ぎしながら、堪らずその場に倒れ込む。
「それに…ほら、もう…」
ふるふると指先で、力なく道場の襖の向こうを指差せば薄らと明るい。
夜明け間近だ。
「やはり鬼である蛍に呼吸を扱えというのが無理な話なのか…しかし千寿郎とは違い呼吸初期の切れ端なら見えた。あれなら…」
「ねぇ。聞いてる? もう夜明けだよ」
己の顎に手をかけて、ぶつぶつと考察している杏寿郎を再度呼びかける。
熱中すると真っ直ぐのめり込むからなぁ…それより朝ですって。私の天敵の。
杏寿郎には一日の始まりを告げ……る?
「待って夜明け!? 杏寿郎!」
思わずガバリと体を起こす。
大変!
「どうした? そんなに慌てなくとも朝日は此処まで入ってこないぞ」
「そういう問題じゃなくて! 昨日は夜になる前に仮眠取ったっ?」
「…む」
あ、取ってないなこれは。
慌てて問えば、顎に手をかけた体勢のまま固まってる。
私の訓練につき合えば、最悪丸々一夜起きていなければならない時もある。今日みたいに。
なるべくそれは避けてるんだけど、避けられない時もある。今日みたいに。
だから訓練日の昼間は、仮眠を取れる時はなるべく取ってねって言ってるんだけど…杏寿郎が問いに頷いたとこなんて見たことない。
またみっちり仕事漬けだったんだろうな。
ってことで、
「今日の訓練はここまで! 解散!」
「!? よもや」
師範である杏寿郎の権限を代わりに行う。
ごめんなさいね!
でも早くしないと朝がくるから!
「はい杏寿郎はお風呂! 私お布団用意してくるからっ」
「しかし蛍が早く汗を流した方が…」
「屋敷の主は杏寿郎でしょっ一番風呂は師範です!」
「む、う」
渋る杏寿郎の背中を押して風呂場へと急かす。
いいから早く入る!!