第11章 鬼さん、こちら。✔
「でも、まだ上手く広げられないし…杏寿郎の呼吸みたいに、恰好良くもないし」
辺りを焼き尽くす程に照らす太陽のような技とは正反対に、私の異能はドス黒く、動き回る見た目もなんだか気持ちが悪い。
や、私の影なんだけど。
思い描いてもいないのに、勝手に蛇のようだったり鬼の手のようだったり変貌するから。
これで影踏み鬼をしたら、子供達は全員泣くと思う。
思わず愚痴を漏らせば、反対にぱっと杏寿郎の顔が華やいだ。
「恰好良く見えるか?」
「うん」
あ、凄く嬉しそう。
「そうか! ならば蛍も学んでみるか? 炎の呼吸を」
「え? できるの?」
日輪刀ないのに?
そう目で問えば、伝わってくれたみたいだ。
「日輪刀がなくとも、今の俺のように炎の呼吸の型くらいは生み出せる。威力は落ちるが…蛍もその体に本気で叩き込めば覚えられるかもしれない。生半可な気持ちでは挑めないぞ。それでもやってみるか?」
「うん! やってみたいっ」
答えなんて決まってる。
学べる機会があるのなら、ぜひ学んでみたい。
私のその姿勢に、杏寿郎の顔が満足そうに笑う。
「それでこそ炎柱の継子だ! よし、では実践を交えてやろう!」
「えっ」
「百聞は一見に如かず! 習うより慣れろ!」
「待っ」
「さあいくぞ!」
って話聞いてない!
いっつもこう!
人生の導きみたいな言葉は凄く重みがあるのに、指導となると鬼より鬼!
すっかりやる気に満ちた杏寿郎の背後は、まるでめらめらと燃え盛る炎が見えるかのようだ。
あれ呼吸法で作った幻覚? 違うよね?
「お、お手柔らかにお願いします…」
結局緩和できる道なんて何処にもなくて、そんな情けない返事しかできなかった。
蜜璃ちゃんみたいに、豊満な胸張って「押忍!」って言えるようになりたい。
あ。まず豊満な胸なんてなかった自分。