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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第4章 柱《壱》



「鬼も人と変わらず酸素を取り入れ血を巡らせる。ならば出来るはずだ。息を止めろ、蛍」

「っ…っ!」

「限界まで酸素を絶つことで血を沸き立たせる。それが第一歩」


 一歩って、何、が。

 急に塞き止められた息に、戸惑いしかない。
 堪らずその手首を掴んで主張しても、杏寿郎は放してくれなかった。


「限界まで耐えろ。腹に力を入れろ。血脈の音を聴け。鬼であるなら出来るはずだ」

「っふ、ぐ…ッ」

「抗おうとするな。受け入れろ。無駄な動きを増やせば余計に苦しくなるだけだ」

「っ…!」

「集中だ。全細胞を、それ一点のみに集中する。それ即ち呼吸の法則」


 呼、吸?

 何を、言っているのか。
 私は鬼殺隊じゃない。
 呼吸なんて基礎も何も知らないし、法則なんて当然知らない。

 そんな疑問もすぐに薄れていく。
 何かを考える余裕がなくなって、酸素の切れた体が力を失くす。


「集中しろ。命を繋ぐのは刹那だぞ」


 そう告げた瞬間、杏寿郎の手が緩んだ。


「っは…!」


 意識が遠のきそうになった瞬間、舞い込んだ命の空気。
 咄嗟に大きく息を吸い込めば、喉が詰まって咳が出た。


「げほッんぐ!」


 それも束の間、再び口を鼻ごと片手で覆われ封じられる。
 暴れようにも酸素が足りなくて、ずるずると壁を背に体がずり落ちる。


「集中だ。俺を視ろ。目を逸らすな」


 それでも杏寿郎は、その行為を止めなかった。
 覆い被さるような体制で尚、淡々と告げてくる。


「生きることにだけ集中しろ」


 生きることって言ったって、息が詰まって…!


「ん、ふ…! ふ!」

「己の躰を知れ、蛍。その躰を操れるようになれ。それが命を繋げる一歩だ」


 呼吸困難で涙が滲む。
 どうにか命を繋ごうと、体が勝手に動きを止める。
 心臓が血を送り出す。
 ただそれだけに集中しようとする細胞の中の血液の音が、ドクドクと鮮明に届いた。


「そうだ。自分の音を聴け。呼応せよ。そうすれば自ずとすべきことは躰がわかる」

「っ…ふ、っ」

「集中だ」


 集中、と唱えるような声が、やけに響く。
 血液の沸き立つ音は煩いのに、何故かその声は一句漏らさず耳に届いた。

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