第11章 鬼さん、こちら。✔
命じられる鬼討伐の他に警護地区の巡回、そして継子がいれば鍛錬と育成もしなきゃならない。
杏寿郎は私の他に継子はいないけど、毎日大量の書類と向き合ってる。
内容は詳しく知らないけれど、この間見せて貰ったのは平剣士達の現状と問題を表にしたものだった。
杏寿郎の性格からして、そういう細かい仕事も自ら引き受けてそうだし。
大変だなぁとつくづく思う。
それでも一切弱音は吐かないし、大変そうな素振りも見せない。
昼間は柱の仕事をして、夜の空いている時間は全て私との訓練に当ててくれる。
流石に毎日つき合わせると寝不足で倒れてしまうから、一週間に三日程の頻度に下げてもらったけど。
それでも以前、柱としての意識が足りないって自分を叱咤していたし…あれから更に厳しく取り組んでいるんだろうな。
だからせめてご飯くらいは作ってあげたい。
自分は強き者だからと、人々を守ることを当然のものとして受け入れている杏寿郎だから。
私にできることが、あるなら。
「味噌汁はまだ残っているし、明日の朝餉にしよう。後は米と漬物があれば十分だ。明日の朝餉作りは休んでいいぞ」
「珍しいね。いつも綺麗に食べ切るのに、お味噌汁残すなんて」
テキパキと片付けをしている杏寿郎を、廊下の出入口の段差に座って膝の上で頬杖をつきながら見守る。
汁物もおかずもあるならあるだけ大量に、ご飯だって勿論米粒一つ残さず綺麗に平らげる杏寿郎なのに。
「この味噌汁がとても美味かったんだ。また食べたいと思ったから、明日の為に取っておく」
洗ったお椀を片し終えた杏寿郎が、振り返り笑う。
心底嬉しそうに笑う顔からして、余程さつまいもが美味しかったんだろうなぁ。
くしゃりと表情を崩して笑う、杏寿郎の年相応に見える笑顔。
…あれ見るの、好きだなぁ…。
「っ」
って好きって。
だから何言ってんの何思ってんの自分。
「蛍? どうした、腹でも空いたか!」
「…空いてない…」
思わず顔を両手で覆って膝に埋めれば、あっけらかんとした大きな声で問われた。
本当、人の気も知らないで。
違った、鬼の気も知らないで。