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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第11章 鬼さん、こちら。✔







『君は俺にとって、特別な女性だから』





 二週間前、人も疎らなお館様の中庭でそんなことを告げられた。
 一瞬、何を言っているのかわからなかった。
 その後すぐに、ああだから義勇さんとは違うなんて言ったんだと悟った。

 それから間を置いて疑問に感じたのは、何が特別なのか。
 鬼という意味で?
 それとも鬼の中でも特殊だって意味で?
 でも杏寿郎は私のことを特別な女性(ひと)だと伝えてきた。
 じゃあ鬼じゃなく人間と同じように見てくれてるってこと?
 そういう意味の特別?

 考えれば考える程、なんだかどんどん疑問は深まって。
 告げた時の杏寿郎の優しい笑顔が妙に脳裏に焼き付いて、鼓動は増して。





『き…杏寿』

『彩千代。煉獄。長話をするなら場所を移せ。お館様にご迷惑がかかる』

『ああ、話は一段落した。戻ろうか、蛍』

『ぇ…ぁ…』





 その場の空気を止めたのは、遠目から何気なく忠告してきた義勇さんの声。
 そこから身を離した杏寿郎は、もういつもの杏寿郎だった。

 一段落って…伝えたかっただけ?
 じゃあそんなに大した言葉でもなかったのかな…。

 結局その後、炎柱邸に引っ越す間も杏寿郎は一度だってあの笑顔を見せなかった。
 いつものぐいぐい引っ張っていってくれる炎柱の杏寿郎だった。


「──ご馳走様。大変美味かった!」

「あ、うん。お粗末様」


 ぱんと両手を合わせて綺麗に平らげたお皿を前にする杏寿郎に、はっと我に返る。
いけない、考え込んでた。

 後片付けは自分ですると決めた杏寿郎だから、お皿を片付ける姿を黙って見送る。


「今日は異能の開花訓練の続きをしよう」

「御意。…そういえば地区巡回の方は話進んでるの?」

「それならば問題ない。前以て隠の者達から得た情報で、適確に回るべき場所は把握している」


 杏寿郎の継子となって詳しく知った柱の仕事。
 鬼殺隊の剣士達の上に立つ立場なだけあって、柱の仕事は群を抜いて多いらしい。

 その中でも一番大変なのが警護担当地区の巡回。
 柱は全部で九人。
 その彼らに日本全土の警護地区が振り分けられているから、物凄く広大で巡回するだけでも時間が掛かる。

 だから度々この本部から姿を消していたんだな…柱の皆は。

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