第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「今回お館様に認められただけであって、俺は前々から君を継子として迎え入れていたつもりだ。その心構えになんら変わりはないからな」
「…杏寿郎のお陰で、そのお館様にも認められた気がする」
「俺だけじゃないぞ。柱全員が君を認めた。故にお館様に認められるのも当然の結果だった。それは蛍自身が勝ち得たものだ、胸を張っていい」
「そう、かな…形なだけな気もするけど…」
「…胡蝶のことか?」
まるで思考を読んだかのような杏寿郎の反応に、蛍の目が丸くなる。
そんな蛍の驚きの表情に「見ていたからな」と、杏寿郎は静かに笑った。
「…義勇さんから聞いたの…胡蝶は、元は私のことを拒否していたって。そんな胡蝶が認めてくれた理由が知りたくて…でも近付くことすらできなかった」
「…我らは同じ柱ではあるが、生きてきた道は大きく違う。共に鬼を滅し人々を守りたいという思いはあるが、故にその逆はない。だからこそ意見も割れる」
「…うん」
「だからこそ今回皆の意志が一つに集ったのは奇跡に近い。その奇跡を生んだのは蛍だ」
大きな掌が、優しく肩に乗る。
着物越しでも温かさを感じるような太陽の手だ。
「一歩、君は踏み出せたんだ。二歩目もきっと踏み出せる。後退する日もあるかもしれないが、それも含めて君の軌跡だ。胡蝶もそんな君が見えない程愚鈍ではない。…不安はあるだろう。だがここで終わりではない」
「……」
「今日は一歩踏み出せた。少し休んで、また次の歩調を整えればいい」
温かくも優しい言葉は、いつも蛍の胸にするりと落ちる。
受け止める意識もないうちに入り込んで、内側からじんわりと心を熱くするのだ。
「…ありがとう、杏寿郎」
「うむ!」
「……その…私が…」
「うむ?」
「人の血を、飲んだことも…受け入れて、くれて」
その熱さを忘れないうちにと、躊躇していた感情を思い切って伝える。
他人の血を啜った行為は、実弥辺りには嫌悪感を向けられると思っていた。
だからこそ実弥の協力的な言動にも驚いたが、何より蛍にとって不安だったのは杏寿郎の反応だった。