第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
(今、なんて…)
思わず耳を疑う。
以前のしのぶであれば、蛍もすんなりと受け止められた拒否だった。
しかしほんの些細な一歩でも踏み出せていると思ったからこそ、己の耳を疑った。
「私は貴女に血を提供する気はありません。お館様の指示を受けたので、記録と管理だけは行います。…そこをお忘れなきよう」
目線を逸し告げるしのぶの顔が、事を終えたとばかりに背く。
「それでは」
「…ぁ…」
再び背を向け去っていくしのぶを、蛍は引き止めることができなかった。
唖然と漏れた声だけが、暗い夜空に吸い込まれて消える。
「……」
自然と下がる視線が、足元へと落ちた。
「よォ! 胡蝶にフラれたか!」
「ッた!?」
その沈黙を破ったのは、後ろからバシリと後頭部を叩く掌。
反射で頭を押さえ振り返った蛍に、大きな影がかかる。
「辛気臭い顔すんなよ。折角鬼殺隊に迎え入れられたってのに」
「だからって頭叩いて良いことにはならないから…暴力忍者め」
口角を上げて笑う天元を見上げて、蛍の唇が尖る。
「お前がその忍者呼び癖直したら俺も考え直してやるよ。ってか血を飲んだってなんだ。お前あんなに頑なに自分の血以外は飲まなかったのによ」
「それは…」
「冨岡の血がさぞかし美味かったんだろうな?」
「そ、そんなことないよ…いや不味くはないけどっ…どちらかと言えば、お、美味しいの、かも」
「そうなのっ? やっぱり鬼の蛍ちゃんには血って美味しいものなのっ!?」
「だからと言って甘露寺には手を出すなよ…その肌に傷を付けたら貴様の牙を残らず引き抜いてやる」
「え。えっと」
その騒がしさが目立ったのか、蜜璃や小芭内まで顔を突っ込んでくる。
急な問い掛けに戸惑いつつも、どう応えるべきか。迷う蛍の人への吸血行為に、柱達は大いに興味を持っていたようだ。