第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「うーん。そうだね…なら実弥の血は緊急時対応にでも、ということにしようか。血を飲むにしても、稀血に慣れることは蛍にも良いことかもしれないよ」
「…でも、抑制が…」
「舐めるなよ。お前くらいの鬼なら俺一人で押さえられるわ」
「だそうだから、遠慮しなくていいんだよ」
「い、いや(遠慮というか嫌なだけですが…!)」
と大いに伝えたいのに、善意で微笑む耀哉を前にすると否定できず。
座布団の上でどうしたものかと縮こまる蛍に、耀哉はふと口元を緩ませた。
「私はね。どんな形であれ、こうして鬼である蛍が柱である皆と関わってくれることが嬉しいんだ。そこには私もまだ知らない、未知なる世界が広がっている。君の生き方に型を作らせたくないんだよ。だからやれることはなんだってやってみたい」
そわそわと一人縮こまっていた蛍の挙動が治まる。
微笑む耀哉をまじまじと見つめて、徐に両手を握り合わせた。
「じゃあ…あの…血は、できるなら前もって摂取したものを飲む方がいいです…誰であってもなるべく傷付けない方法で血を摂りたい、です」
「わかった、善処しよう。しのぶ、協力してくれるかな」
「御意」
「じゃあ、じゃあ、あの! 私も蛍ちゃんに血を分けてあげたいです!」
「っ駄目だ甘露寺。君の血を与えるくらいなら俺が血を流す」
「えっ」
「血かぁ…血ねぇ。別に俺は提供してもいいけどよ。冨岡とか血ィ抜いたらすぐ卒倒しそうな顔してるもんな」
「そんな顔はしてない」
「私は、お館様の意向に従う…」
「うーん、どちらかといえば嫌だけど…」
慌てて口を挟む小芭内に、頬を染める蜜璃。
嫌味に笑う天元に、心外だとばかりに眉を潜める義勇。
行冥や無一郎の反応にもくすくすと笑いながら、耀哉はやんわりと彼らを制した。
「なら万が一の為に、蛍に血を提供できる者は柱だけとしよう。誰がどう与えるかは臨機応変に。無理強いはしないよ。与えられる者だけ与えればいい。ただし記録は付けること。しのぶ、君に管理を頼むよ」
「わかりました」
今回、一番緊張が走った瞬間だった。
まとめ上げる耀哉の口から話の終わりが見えて、蛍はほっと張っていた肩を下げる。