第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「──わかった。義勇のそれを認めよう」
「本気ですかお館様ッ!?」
「それが蛍の生きる道なら。義勇も十分覚悟できているみたいだしね」
思わず腰を上げ膝立ちする実弥に、返す耀哉の表情は相反して穏やかだ。
「蛍」
「…はい」
「君には心苦しいことを強制させるかもしれない。だけど私や義勇は、心から君の力になりたいと思って行動しているんだ。それを忘れないでおくれ」
優しい声につられて蛍の顔が上がる。
耀哉は視力を失くした者。
なのに何故、目が合うとまるで見えているかのように優しく微笑むのか。
「今後、蛍の飢餓抑制においての血液提供を義勇に一任しよう」
「待って下さいお館様」
耀哉の言葉を遮りはしなかったものの間髪入れず口を挟んだのは、考え込むように腕組みをしていた杏寿郎だった。
「その血液提供、名乗り出てもよろしいでしょうか」
「杏寿郎もかい?」
「はい。少量と聞いても血を抜くことには変わりない。いくら柱とて一人だけにその責任を負わせるのは危険です。俺も協力したい」
「ふむ…そうだね。この中で一番医療に長けているのはしのぶだ。どうかな?」
「確かに煉獄さんの意見は一理あります。彩千代さんがどれ程の頻度で血液を求めるかも全くの未知数です。それならば提供者は多いに越したことはない」
「ならば俺にも一枚噛ませて下さい」
上げていた腰を下ろし、続けて静かに声を上げたのは実弥。
「鬼の監視が俺の務め。その飢餓抑制の効果も見極めたい」
「成程。確かにね」
「……あの、」
「ん? なんだい、蛍」
おずおずと片手を挙げる蛍に、皆の目線が一斉に集中する。
威圧さえ感じる目に気圧されながらも、蛍は一人頸を竦めた。
「風柱の血はいいです」
「ァあ!? なんでだァ!」
まさかの拒否に、再び実弥の体が反動で跳ね上がる。
今にも腰の日輪刀に手が伸びそうな気迫だ。それでも尚、蛍は頸を横に振った。
「だって稀血だし。飲んだら一番危ない気がする…」
「だからいいんだろォが! 鬼にとっちゃ稀血は馳走だ! ありがたく頂け!!」
「ぇ…嫌です」
「テメ…ッまた口に突っ込んでやろうかゴラ」