第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「では話は概、これで終わりかな」
「お館様。一つ、よろしいでしょうか」
「何かな」
大方の話し合いは結論を得た。
締めようとする耀哉に、静かに声を上げたのは義勇。
「彩千代蛍の飢餓について、新たな提案をさせて頂きたい」
「…どういう提案かな?」
義勇が何を言わんとしているのか、その場で理解できたのは蛍としのぶだけだった。
あの夜の出来事を思い出して、つい蛍の顔が俯く。
反して凛と顔を上げたまま、義勇はさらりと言い切った。
「今後は飢餓抑制の為に、己の血を彩千代蛍に提供したいと思っています」
余りにも躊躇なく告げる義勇に、その場にいた柱達は一瞬言葉を呑み込んだ。
「前例もあります。今回彩千代の体が完治したのは、己の血を与えたが為です。量は然程多くありません。しかしそれによって彩千代の怪我は──」
「おいおい待て待て何言ったんだコイツは」
「…俺には理解し兼ねる言葉だ」
「冨岡さんの、血を…?」
「与えたってのかァ? 飲んだってのか!」
「え? 冨岡さんを襲ったの?」
「いや、冨岡から血を与えたそうだ…」
ようやく理解が追い付いた柱達が、予想通り顔色を変える。
尚更複雑な感情で俯く蛍の態度が、真実だと物語っていた。
「…冨岡の言葉が真ならばその血を与え、蛍少女は喰らったと?」
「彩千代は最後まで抗った。俺が無理矢理与えたんだ」
「俺の血を無理矢理口に突っ込んでも飲まなかった奴だぞ。嘘言ってんじゃねェ」
「事実だ」
「では鬼として冨岡を喰らったということになるな」
「血は飲んだが俺の声を聞いて理性は失わなかった。だから俺は此処にいる」
矢継ぎ早に問い掛ける小芭内達に、冷静に対応する義勇には動揺も焦りも見られない。
静かに彼らの様子を見守っていた耀哉が、そこでようやく口を開いた。
「義勇の話を要約すると血を飲むことで蛍は飢餓を抑え、尚且つ体を完治。その際に人間性は失わなかったと」
「その通りです。証拠もあります」
「見せてくれるかな?」
「御意」