第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
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「やあ蛍、半年振りだね。また元気な姿が見られて嬉しいよ」
体が完治して凡そ三日後のこと。
蛍は三度目となる産屋敷邸に身を置いていた。
耀哉と個人的な話も交えた小さな部屋ではなく、三十畳程もある広い部屋で迎え入れられる。
「お久しぶりです」
心底嬉しそうに笑顔を向ける耀哉に、蛍にもつい笑顔が浮かぶ。
何気なく向けられた"半年振り"という言葉が、どれだけ望んだ言葉だったか。
改めて自分の処遇の結果を実感して安堵した。
この鬼殺隊の中で生きていけることに。
「義勇から概のことは聞いているだろうけど、改めて君の今後の身の振り方について話をしようと思う。私と、蛍と、柱達とで」
耀哉が三十畳もの広さを誇る部屋を選んだ理由は、そこにあった。
その場には耀哉と蛍を含め、九人の柱達が勢揃いしていたからだ。
「しっかし一時はどうなることかと思ったぜ」
「鬼がそう簡単に死ぬ訳ねェだろォ」
「これで蛍ちゃんも鬼殺隊の一員になるのね…! 嬉しいわっ」
「まだ鬼殺隊に入れると決まった訳ではありませんよ、甘露寺さん」
「一先ずは鬼子を鬼殺隊が認めた、と言ったところだろう…」
「俺はまずあの火事の中で何があったのか知りたい」
「俺も伊黒に同意だ! 蛍少女、話して貰えるだろうか!?」
「…俺はどうでもいいけど…」
「皆それぞれ思いの丈はあるだろうけど、まずは耳を傾けてみよう」
優しく促す耀哉の言葉に、一斉に柱達の口が閉じる。
座布団の上で正座した体制のまま、蛍は僅かに身を固くした。
周りから否応なしに感じる視線が痛い。
「お前を値踏みするつもりはない。ただ起こった出来事を話してくれればいい」
「…うん」
後方で静かに促す義勇に、蛍も意を決する。
いずれは伝えるべきだったものだ。
果たしてそれが杏寿郎の教えてくれた"異能"と呼ぶべき力なのかは、わからないが。