第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「あ、の…」
「……」
「…ぎゆ、さ」
「……」
恐る恐る。
呼び掛ける蛍に、義勇からの反応はない。
近い距離に更に強まる血の匂い。
どうしても目は、赤く色付く義勇の口内へと向いてしまう。
ふと影がかかる。
見上げた蛍の視界に、成端なその顔立ちがあった。
(──近い)
吐息すら感じそうな程の距離に、目が逸らせなくなってしまう。
甘美にも感じ取れる血の匂い。
無意識に口を開く蛍に、義勇の顔が被さった。
「ンン"ッ!」
「「!?」」
突如響いたのは、強く濁った咳払いだった。
跳ねるようにして退く義勇の顔に、驚いた蛍の顔も上がる。
「何してるんですか?」
開いたカーテンの先から届く可憐な声。
其処には、真新しい包帯の入った籠を手にしたしのぶが立っていた。
「胡ちょ」
「ああ説明は要らないですやっぱり」
にっこりと笑顔を浮かべると、額には青筋を浮かべて。
「変態冨岡さん」
吐き捨てるようにして切り捨てた。
「炭治郎君の姿を見掛けたので面会は終わったとばかり思っていましたが…まさか夜這いをしてたとは。ねぇ変態冨岡さん」
「違う、胡蝶これは」
「そんな姿で言い訳はみっともないですよ変態冨岡さん」
「聞け。ちゃんと理由が」
「その変態思考を私に曝さないで下さい変態冨岡さん」
「彩千代の容態を」
「その彩千代さんからさっさと離れて下さい変態冨岡さん」
(うわあ…)
蛍が口を挟む隙など一瞬もない程、場の空気が一変する。
無表情さは変わらないが共に圧された義勇が、それでもと状況を伝えようとした。
「だが」
「黙れ変態さっさと来い」
(うわ敬語外れた怖い)
がしかし一刀両断。