第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「…本当、に?」
「ああ」
「ほ、本当、に?」
「ああ」
余程信じられないのだろう。義勇の手を握り再度問い掛ける蛍に、義勇は変わらない態度で頷くだけ。
当主の耀哉の話によれば、蛍は今回の柱合会議で自分の生死を懸けられることを知っていたはず。
そこで既に己の死を視野に入れていたのだろう。
だからこそにわかには信じ難いのだ。
「義勇さんは、そうだとしても…胡蝶や風柱は認めないと思ってた…」
「確かに胡蝶は一度お前を否定した。どう足掻こうと鬼は鬼。それ以外の目では見られないと」
「じゃあなんで…」
「それは胡蝶自身に聞け。彩千代の義談は火事で一度中止した。その後の結論で、胡蝶はお前を認めたんだ。はっきりとした理由を俺は聞いてない」
「……話して、くれるかな…」
「さぁな…俺にはわからん。ただ彩千代が寝ている間、つきっきりでその体を診続けていたのは胡蝶だ。昼間は炭治郎達の訓練を観て、夜はお前の体を診る。生半可な気持ちじゃ続けられないことだ」
「……」
「気になるなら訊いてみればいい。今後のことも含めて、改めてお館様と柱とで話を設ける日がある。その時には彩千代にも足を運んでもらう」
「え? いいの? 私がいても」
「お前の話をするんだ。お前がいなくてどうする」
「そ…っか。そう、だよね」
柱合会議の時は自分の話をするにしても、参加させてもらえなかった。
当主と柱のみで行われる会議だから、当然の結果かもしれない。
だからこそ不思議そうに誘う義勇の言葉は、蛍の心を軽くした。
それだけ自分はこの鬼殺隊に認められたのだろうか。
そう思えて。
「体は回復したようだが、改めて胡蝶に診てもらってから話し合いだ。もう少し休んでいろ」
「うん…ありがとう、義勇さん」
「…ようやくだな」
「? 何が」
「お前は謝罪ばかり口にする。そっちの方が、俺も心が軽い」
「ご、ごめムッ」
「今言ったばかりだろ」
「ム、ムク…」
ぱちりと片手で蛍の口元を覆って、忠告するように顔を寄せる。
じっと心を見抜くような黒い眼は、以前は感じていた底冷えがない。
咎めてはいるが、不思議と冷たくは感じなかった。