第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
縦に割れた瞳孔が驚きに満ちる。
「ほ…んと、に?」
「ああ」
「こんな、半端な私でいいの…?」
「…お前は、人でもなく鬼にも成りきれていないと言ったな」
義勇の視線が再び落ちる。
緩く手首を握ったまま、掬うように掌に乗る一回り小さな手。
それは鋭い爪を持つ、紛うことなき鬼の手だ。
しかし義勇の手を一切傷付けていないのは、常に蛍が手元で触れることに配慮を向けているから。
その些細な違いが、確かな証でもある。
「俺には、人でもあり鬼でもあるように見える。だから衝突もするし、心と体にすれ違いも起きる」
完全に鬼に染まった、人々を脅かす悪鬼とは違う。
また禰豆子のように、鬼の顔も人の顔も薄めている訳でもない。
「それが彩千代蛍だ」
そのどちらもを明確に手にしているのが、唯一の目の前の鬼だ。
「そんな彩千代だから他の柱達も認めたんだ」
「え?」
「柱合会議で出た議案の一つに、彩千代の鬼殺隊での処遇があった。一人でも柱がお前を悪鬼と認めれば、その頸は即座に跳ねられる」
「……それ…」
「結果は既に出た。お前が寝ている間に」
握っていた掌に力が入る。
強張っているのは、緊張している証か。
その手を柔く握り返して、義勇は数日前の結論を伝えた。
「満場一致だ。柱は、お前を生かすことにした」