第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
大きな羽織で身を包んで、いそいそと中で寝間着を脱ぐ。
脱いだ寝間着を見れば成程、義勇の隊服よりも血に染まっていた。
さっさとそれを取り上げ義勇が部屋の隅に放ったものだから、ほとんど裸に近い状態で羽織に包まる結果となった。
(あれ…なんか凄く恥ずかしいぞ。これ)
以前は、幼児と化した小さな体で包まれていた。
しかし普段の蛍であれば、体全体を包むことはできない。
どうしても露出してしまう足や首筋が心許無い。
「義勇さん…これ、スースーする…」
「それくらい我慢しろ。それより顔を上げてこっちを見ろ」
「いや…直視できませんて…輝きで目が潰れる…」
「なんの話だ。いいから上げろ」
「んっ」
頑なに拒否すれば、顎に添えられた手が持ち上げてくる。
恐る恐ると目を開けば、水差しを傾け手拭地(てぬぐいじ)を濡らす義勇が見えた。
「? 何して…」
「血を拭うだけだ。動くなよ」
「っ冷た」
「動くな」
ひたりと肌に触れる布。
そのまま丁寧に義勇の手が、顔や首筋の血を拭っていく。
「手を出せ」
「…ん」
差し出した両手も指先まで丁寧に血を拭われる。
(…大きな手だなぁ…)
背中を擦られる時にも感じたその手を、蛍はまじまじと見つめた。
何度も刀を握り、振るってきたのだろう。指の間や掌にはタコが見える。
眉目秀麗な顔立ちとは不釣り合いにも見える程、無骨な男手だった。
(体にも…傷、いっぱいある…)
ほんのりとした蝋燭の灯りでは詳細まで見えずとも、寝台に腰掛ける義勇との距離は近い。
実弥程の目に飛び込んでくる傷跡ではないにしろ、肩口や脇や二の腕など、よくよく見れば幾つもの鋭い傷が見えた。
「…ごめんなさい」
「なんの謝罪だ」
つい零れた謝罪は、顔色一つ変えずに返される。
「義勇さんの体に、余計な傷…作ってしまって…」
「胡蝶の薬は鬼殺隊随一だ。これくらいの傷なら簡単に治る」
「でも跡が残らない保証は、ないでしょ?…嫌だよ。義勇さんの体に、傷跡を増やすなんて」
ぽそぽそと気弱に伝えてくる蛍に、手元に向いていた義勇の視線がようやく上がった。