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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔



 血に染まった鮮やかな瞳が、驚きに満ちる。
 蒼白だったはずの顔色が赤みを増し、真っ直ぐ過ぎる物言いに蛍はたじろいだ。

 何かと傍に付いていてくれたのは確かに義勇だ。
 しかしそれは鬼殺隊当主である耀哉との契故。
 そこに義勇個人の思いはないと思っていた。


「幸い此処には医療道具が揃っている。止血はできる、待ってろ」

「あっ義勇さ…」


 蛍の声に止まることなく、すいと離れた義勇がカーテンの向こうへと消える。
 呆気に取られた蛍は、半端に片手だけを伸ばしたまま。
 離れる血の匂いにほっとはするが、何故だか心寂しい。
 つい先程まで感じていた掌の温もりを思い出すかのように、そっと自分の手を自分で握る。


(て何してんの自分っ?)


 はっと我に返ると、慌てて頭を振り被った。
 何故だか顔が熱い。


「ぎ…義勇さん、あの、やっぱり」

「其処に水差しはあるな」

「え?…うん」

「中に水は残っているか」

「? うん」


 羽織や衣服が擦れる音の間から、義勇に問われる。
 頸を傾げつつ応えれば、それ以上の問いはない。


「(え? 何)…あの…義勇さん? 私、大丈夫で」

「体は再生したようだな」

「あ、うん…」

「痛むところは。治りきっていないところはあるか」

「多分ない、かと…」


 再び告げようとすれば、被さる声に止められる。
 その間ぽつぽつと灯された蝋燭の灯りで見えるカーテン越しの影は、手当てをしているのか微かに動作が見える。


(…言わせないようにしてるのかな)


 どうやら義勇は蛍の言葉に従う気はないらしい。
 どうしたものか、そわそわと気が散ってしまう。
 問われた水差しを覗き込めば、案の定波紋一つ広がっていない綺麗な水が映る。


 ピチャン、


 そこへ雫が一滴。
 透明な水に落ちると、ゆらりと赤い線を引いた。


(──あ)


 蛍の顎を伝い溢れ落ちたそれは真っ赤な雫だ。
 改めて自分の今の姿を思い浮かべて、蛍は唇を噛んだ。

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