第4章 柱《壱》
「…次したら私もするからね」
「む」
「どうせ私は治るんだし。今度はこの腕噛み千切る」
「とんだ自傷行為だな…鬼らしい潔さがあると言うべきか」
「感心するところじゃないからそれ。だから杏寿郎も止めてって言ってるの。見て自分の姿。見てその血。凄いけど」
さっきから血が流れっ放し。
止血しないと。
「しかし俺が止めたところで彩千代少女の自傷行為は止められないだろう」
「それとこれとは別問題。私だってしたくてしてる訳じゃないんだから。はい、止血するから腕出して」
「むぅ」
いつまでもそのままにしている腕に、止血用にと杏寿郎の持ってきていた風呂敷を手に向き合う。
だけどいざ止血しようとすると、ぴたりと血が傷口から止まっていることに気付いた。
「…?」
「血は己で止めた。もう問題ない」
「え?」
止めたって、何もしてないよね?
じっと腕を見てただけとしか…何したの?
筋肉で止めでもしたの?
そんな馬鹿な。
「"呼吸"の一つだ。全身の神経を集中して高め、破れた血管を圧迫して止めることができる」
「…そんな馬鹿な」
本当にそんな馬鹿なだった。
思わず口に出してしまった。
え、何それ呼吸ってそんなこともできるの?
もう常人の域を遥かに越えてるよね、鬼より凄いんじゃないの? 柱って。
「これで問題ないな!」
「いやいや問題なくない。傷口から細菌が入ったらどうするの。消毒!」
「!?」
あっけらかんと笑う杏寿郎の腕目掛けて、胡蝶しのぶが置いていった消毒液をぶっかける。
ぶっかけるなんて言い方大層な表現だけど、実際はそんなに大量に…かけるつもりはなかったけど、ばしゃりと思いの外小瓶の中身が跳ねた。
あ。
「〜っ…よもや…」
「ご、ごめん」
流石に大層滲みたらしく、腕を押さえてぷるぷると杏寿郎が震える。
痛いよね、わかる。
胡蝶しのぶの消毒も結構遠慮ないから。
それどころじゃない怪我でいつも素通りしてるけど、その消毒液結構滲みるよね。わかる。
「水いる? 洗い流すっ?」
「いや…そっとしておいてくれるとありがたい…」
だよね! ごめん!
それでも何かできないかとそわそわ身の周りを見ていたら、消毒液の匂いに混じって"それ"が充満していることに気付いた。