第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「俺はお前のこんな死に方は望まない。死ぬなら、自分の成すべきことをしてからだ。自分自身を認めてから死を選べ」
「認めるって…鬼の自分を? そんなの」
「無理でも視ろ。目を逸らすな。それが、お前が他の鬼とは絶対的に違うところだ」
「違うって…それって、いいことなの? こんな、人でもないのに、感情がふらついて。鬼にも成りきれてないのに、血肉に飢えて」
か細かっただけの蛍の声が、初めていきんだ。
「世間の鬼がどうだとか、私は知らないよ。なりたくて鬼になった訳じゃない」
虚ろな瞳に血が宿る。
深紅の流れが見えるかのように、その目は鮮やかに色付いた。
初めて強い感情を見せたのは、鬼の姿として。
そこに義勇は目を止めた。
「…それでもお前は鬼だ。良いか悪いかなんて、死ぬ直前にでも決めろ」
腰に差し込んだ日輪刀に空いた手を伸ばす。
素早く音もなく引き抜いたそれを、義勇は己の羽織の中に差し込んだ。
僅かに角度を変えて、一気に引き抜く。
パッと飛び散ったのは、赤。
「! な、にを」
「意見は全部後で聞く」
ぎしりと木製の寝台が呻る。
布団の上に飛び乗った義勇の手が、蛍の顎を掴んだ。
「うっ?」
「俺の声は聞こえているな。そこにだけ集中していればいい」
「何…っ」
むわりと蛍の鼻孔を突いたのは、濃い血の匂い。
袖を捲り上げた義勇の腕には、赤い線が深々と入っている。
やがて次から次へ滴り落ちてくる血が、ぽたりと蛍の顎に慕った。
上から押さえ込むようにして跨っている義勇に、目の前に掲げられる血の滴る腕。
何をされようとしているのか、悟った蛍は蒼白した。
「ぃ、嫌…ッやめてッ」
「……」
「嫌だ…ッ義勇さん!」
「……」
「ッ」
暴れようにも、衰弱し切った体で適所を押さえ込まれては跳ね返せなかった。
それでも抵抗を続ける蛍の唇は真一文字に結ばれ、ぽたぽたと唇に掛かるそれを一滴足りとも体内に入れ込もうとしない。
固く目を瞑り、目の前のものを全て拒否するように体を強張らせる。