第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「でも…菊池さんは、違う。私のことを知らなかった。知らずに服を作ってくれて、おはぎを食べてくれて、言葉を向けてくれた。でも…私が鬼とわかると、殺すに至るんだって」
「…それが鬼殺隊だ」
「うん…わかってる。わかってるの」
だから尚の事。
「私の存在一つじゃ、何も変えられないんだなぁって」
弱々しく天井を仰ぐ。その目は木目の板を虚ろに見上げた。
「人に心底死を望まれるのって、こんなに、痛いんだなぁって」
まるで他人事のように呟く声は、掠れて儚い。
「痛いなあ」
それは涙のようだった。
「……だから受け入れるのか」
何をどう返すのが最適かなど、義勇にもわからなかった。
ただここで何も言わなければ、認めてしまえば、目の前の儚い体は朽ち果てる。
そんな気がした。
「受け入れたくは、ないよ…でも、受け流して笑えるほど…強くも、なれない」
「……」
「皆の言う鬼になれたなら…それでも生きていけるくらい、強く、なれたかな」
「…あれは強くなんかない。その事実から目を背けているだけだ。見るべきものを見ていない」
「…わかるよ…私も鬼だから。だって全部見ていたら…生きられなく、なる」
「だから死を選ぶのか」
「……」
「答えろ」
沈黙は肯定だ。
それを認めたくなくて、自然と蛍の腕を掴む手に力が入る。
「禰豆子は、生きる意味がある。あの子は、生かさないと駄目。義勇さん、あの子を…炭治郎と禰豆子を、守って」
「言われなくても、俺の命は炭治郎と禰豆子に賭けた。命を賭して二人は守る。だが今はお前の話だ」
強く腕を引いて、天井を仰いでいた顔を向けさせる。
己を見ろと意図する義勇に、掴まれた腕の痛みに顔を顰めた蛍の目がようやく向いた。