第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「お前が今死んだら、今までのお前の行いはどうなる。歩んできた道は。抱えた覚悟は。全て捨てるのか」
「……」
「お館様の差し出した手にも縋らず、自分で生きようとしていたんじゃないのか」
「……私は…」
無言は肯定とも取れる姿。
死を認めようとしているかのような蛍の姿に、尚も義勇の声がきつくなる。
「剣士じゃ、ない」
ようやく絞り出すように伝えてきたのは、義勇の望んだ答えとは別のものだった。
「義勇さん達みたいな、人々を守る、信念みたいなものは、ないし…お館様を慕う、心も、ない」
「…俺達とは違うと言いたいのか」
「違うよ…だって私は、鬼だ」
「そんなこととっくに知っている」
「義勇さんは、ね…でも隠の人達は、知らなかった」
微かに上がる顔。
髪の隙間から覗く緋色の瞳は、光もなく虚ろ。
「私が鬼だとわかった。それだけで殺したい程に憎まれる理由は、できる」
「……」
「私の体を太陽光から守ってくれた、あの袴…菊池さんが、作ってくれたんだよ…凄く軽くて、丈夫で…丁寧に作ってくれたのは、着てすぐわかった」
藤の檻の出入口を塞ぎ、火を放った者の名。
しかし彼女が事件の発端だと知っているのは、同胞の隠や柱達だけだ。
蛍には知らせていなかったはず。
「聞いたのか」
「…聞こえたの」
蛍が深い眠りから醒めたのは、二人分の静かな話し声が微かに聞こえる、とある夜のことだった。
カーテン越しに見える二つの影。
シルエットでは判明しなかったが、声で悟った。
其処にいたのは、柱の義勇と隠の後藤。
二人の会話には、火事が事故ではなかったことを明確にする答えがあった。
「私は鬼だよ。とっくに知ってる。恨まれて当然なことも、理解してる。柱の皆だって最初はそうだった」
しかし最初から鬼としてしか見ていない目と、鬼だとわかった途端に変わる目は、違ったのだ。