第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
(蛍には、善逸と同じ無自覚の強さの匂いがした。ただ…哀しみの匂いの方が強過ぎて、覆い尽くされそうだった)
「…ムゥ…」
「うん…心配だな…」
何度も来た道を振り返る禰豆子の心配が、手に取るように炭治郎も感じ取れた。
蛍は決して弱い鬼ではないだろう。
微かに嗅ぎ取れた彼女の奥底には、見えない強さがある。
ただそれは今にも掻き消えてしまいそうな残り香だった。
火事でその身を焼いたのだと、義勇から聞いた。
しかし焼いたのは体だけではない。
きっとその心もまた、焼かれたのだ。
「…義勇さん」
「なんだ」
炭治郎と禰豆子。
二人の眩い色が消えれば、部屋の暗さを改めて思い知る。
「私、もう喉はほとんど大丈夫だけど…」
「喋るのは、だ。内部の熱傷は完治していないと胡蝶が言っていた」
見えない怪我は誤魔化せるかと思ったが、そう甘くはなかった。
ぴしゃりと言い切る義勇が、完全に遠ざかった炭治郎達の気配を悟って目を向けてくる。
「今までこんなに完治に時間を要したことはない、とも言っていた。明らかに再生能力が低下している」
「……」
「だから禰豆子に会わせたんだ」
「…え?」
「禰豆子に会えば、同じ鬼として生きている者に会えば、お前も活路を見出だせると思った。…逆効果だったみたいだな」
「逆効果って…私は、何も…」
「今のお前からは生きる気力が伝わらない。炭治郎と禰豆子に会えて、もう生きることに満足したのか」
「そんなこと…っ……でも、あの二人に会って気付いた。なんで同じ立場で、私と姉さんは共に生きる道を選べなかったのか…炭治郎や禰豆子みたいに、手を取り合うことができなかったのか」
ない拳を握るように、欠けた手首へと視線を落とす。
そこに触れてくれた禰豆子の優しい体温が、まだ残っている。
「あの子は…特別だよ、義勇さん。他の鬼とは違う」
「…何故わかる」
「わからない。でも、わかる。感じる。きっと、同じ鬼だから。私とは違う次元で生きてる子だって」