第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「炭治郎は…とても優しい色だね。どんな色でも、全て包み込んでくれる」
「色…?」
それは泣きたくなる程に優しい色だった。
無条件に受け入れてくれるような、大きな抱擁感。
それでも一番に混じり合い自然な発光色を生むのは、禰豆子の持つ色。
「禰豆子の、あたたかい色も」
蜜璃の撫子色に似てはいるが、違う。
あたたかみのある色の奥には、炎のような力強さを感じる。
その二つが混じり合うと不思議と一つの色となる。
どちらか片方が欠けてはいけない。
二人がいてこそ意味のあるものだ。
それはどんな繋がりにも負けない、確かな絆だった。
「二人が、今まで鬼と剣士の道を歩んで来れたのが、わかる。…二人だったから。炭治郎は禰豆子を守って、禰豆子は炭治郎を支えたんだね」
「…俺は、長男だから…」
「うん。炭治郎。妹のこと、守ってあげてね。禰豆子に向けられる刃は、この先もたくさんあるから」
そっと頭を撫でるように手首で長い髪に触れれば、禰豆子の目が蛍を見上げる。
ぼんやりと見上げているようにも見える目は、縦に瞳孔が割れた鬼の目だ。
その目は、蛍には初めて見るものだった。
初詣の時に出会った童磨や妓夫太郎や堕姫とは違う。
幼子のように明確な言葉も発さず、本能のままに動いているような動作や仕草。
世間一般の鬼を知らずとも、禰豆子が持つ不可思議な雰囲気を蛍は感じ取っていた。
「守って、あげて。この子は──」
どの鬼とも違う。
初めて知った鬼という存在──あの鬼舞辻無惨とも。
(特別、だ)