第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「蛍、さんは、なんで俺達に会いたがってたんですか?」
「蛍で、いいよ。そんな畏まって、呼んで貰うような立場でもないし…私のことは、知ってるでしょ?」
炭治郎に受け答えながら、その目は禰豆子の行動を一つ一つ見つめていた。
そろそろと包帯の上から手首を撫でてくる様は、痛みを緩和させようとしているようにも見える。
そんな幼い少女の姿はなんともいじらしく、つい口元が綻んだ。
「鬼だから。だから、二人のことが知りたかった。私と同じ道に立った時、何を思って、どう決意して、今に至ったのか。二人の見てきた景色や、人々のことを、知りたかった」
欠けた手首で、そっと禰豆子の頭のリボンを揺らす。
ふくふくと愛らしい吐息を零す禰豆子の目元が、緩やかに細まる。
そのままじゃれつくように蛍の布団の上にぽすんと顔を乗せて、ぱたぱたと足を振る。
見た目よりも幼い禰豆子の行動に、蛍は眉を下げて微笑んだ。
「でも…いい、や」
「え?」
「知りたかったんじゃないのか」
「うん。でももう、見えたから」
穏やかに笑う蛍の目を通して見える、二人の色。
炭治郎も禰豆子も個として一つの色を持っているのに、それは半分だけ。
残りの半分は、不自然に欠けたように発光して見えた。
しかし手前でじゃれつく禰豆子と後方で不思議そうに見てくる炭治郎とを重ねれば、その意味がわかる。
欠けた半分は、もう一つの半分で補うことができる。
炭治郎と禰豆子の色は二つで合わさり、一つの発光色となるのだ。
(二人でひとつ。義勇さんが言ってた通りだ)
炭治郎と禰豆子は二人でいて意味がある。
初めて二人のことを聞かされた時、義勇は確かにはっきりとそう口にした。
蛍のように色が見える訳でもない。それでも義勇にはわかっていたのだろう。
二人の間には、言葉では埋められない繋がりがあることを。