第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
(まさかお館様、とか? あまねさんもいれば複数になるし…でもわざわざ此処まで出向かせられるのかな)
すっかり目覚めた頭にうんうんと考え込んでいると、カチャリと取っ手が回る音。
橙色の蝋燭の灯りの中で、カーテン越しに見える影が二つ。
一つは義勇のものだ。
もう一つは、義勇よりも少しばかり小さい。
(あれ? 複数じゃなかったのかな)
「入れるぞ」
「う、ん」
痛みを覚えつつ、どうにか体を持ち上げる。
枕を背中のクッション代わりにして、上半身を支えて寝台に座る。
そうして広がった蛍の視界に、カーテンを開き踏み込む義勇が見えた。
そしてその後に恐る恐る続く人物も。
「失礼、します」
ぺこりと律儀に頭を下げて、中に踏み込んでくる。
それは十五歳程の幼さの残る少年だった。
ほんのりと赤毛が混じる黒髪は逆立ち広い額を見せている。
真っ先に目に入るのは、その額の大きな火傷のような痣。
その下には優しそうな眉と、穏やかな瞳。
花札のような耳飾りをした、独特の身形の少年だった。
(隊服を着てる…やっぱり、鬼殺隊の隊士だ)
此処にいる者は、鬼である蛍を除けばほとんどの者が隊士である。
やはり産屋敷耀哉ではなかったとどこか納得しながら、見知らぬ少年をじっと見つめた。
「彩千代の説明は一通りしてある」
「彼、は?」
「お前もよく知っている」
少年を紹介するように、隣で並んだ義勇がその名を告げる。
「竈門炭治郎。鬼殺隊の剣士だ」
「──!」
その名に、蛍は驚きで目を見開いた。
「たん…じ、ろ?」
「そうだ」
「本当に、竈門、炭治郎?」
「はいっ。炭焼き家の長男、竈門炭治郎ですっ」
はきはきと応える炭治郎の目に嘘偽りはない。
まじまじとその顔を見ていた蛍は、ようやくその背に気付いた。
「その、背負ってる箱。…色、が」
「(色?)ここには俺の妹の禰豆子が入ってて…」
「禰豆子? 鬼の?」
「はい」
「炭治郎と禰豆子。彩千代が会いたがっていた二人だから連れて来た。那田蜘蛛山で鉢合わせたんだ」
「助けられたんです。義勇さんと、しのぶさんに」
それは偶然の出会いだったという。