第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
夜更け。
ゆっくりと意識が浮上する。
訪れた夜に体が反応するのか、日中は一切覚醒しなかった頭が動き出す。
普段と違うのは、瞼を開ける前から感じる節々の痛み。
目を開いて体を確かめなくても、どんな状況なのか否応なしに理解する。
毎度鬼であることを自覚させられて起きるのは、しんどいものだと思っていた。
しかし毎度痛みで自覚されられるのも中々にしんどいもの。
自然と眉間に寄る皺に、蛍は知らず知らずに溜息をついた。
「起きたか」
「っ?」
全く気付かなかった。
呼び掛けられるまで、カーテンの向こうにあった人影にも。
声も出ない程に驚いて見た先で、人影が動く。
手の甲でカーテンを避けて顔を覗かせたのは、この治療室でも見慣れた顔だった。
「…ぎゆ、さん…」
覚めを待っていたのだろう。驚いた顔で見てくる蛍表情一つ動かすことなく、体の様子を観てくる。
「調子はどうだ。話せるか」
「う、ん。だいじょう、ぶ」
「喉の痛みは」
「まだ、少し…でも前より、よくなったよ」
「水は。飲むか」
「ううん…いい」
静かだが、矢継ぎ早に問い掛けてくる義勇に戸惑いつつ返す。
普段無口な彼にしては珍しい。
「義勇さん…いつから、其処に?」
「夜更け前からだ」
「胡蝶は、許してくれたの?」
「許可は取ってある。寝顔の観察はしていないから心配するな」
「そ…んな心配は、して、ないけど…」
確かに寝顔を黙って見られるのは恥ずかしいもの。
義勇のことだから嘘はついていないはず。
内心安心する蛍余所に、義勇は中に踏み込むことなく背を向けた。
「目覚めて早々悪いが、彩千代の体力も考えれば手短な方がいい」
「何が?」
「会わせたい者がいる」
「面会?」
「いや。俺個人が会わせたいと思った者達だ」
(者…"達"?)
複数ということだろうか。
目で問い掛ける蛍に応えることなく「待っていろ」とだけ告げて義勇は部屋を出て行ってしまった。
(本当に急だ…それだけ急いで会わせたかった人?)
一体誰なのかと考えても答えは出ない。
柱ならほぼ全員面会した。
無一郎のみ姿を見せなかったが、彼の様子も行冥から聞かされてある。