第4章 柱《壱》
「やはり判断は間違っていなかったようだ」
「っぁ…!」
何を笑っているのかと思えば、唐突に刃が腕から抜けた。
違う、杏寿郎が自ら刃を抜いたんだ。
刀を抜こうと踏ん張っていた力が有り余って、前のめりに倒れる。
とさりと、受け止めてくれたのは杏寿郎の大きな手。
「驚かせてすまなかったな。もう終いだ」
「……は?」
「君と同じに抉れはしなかったが、差し出されたものと同じものを差し出したつもりではいる」
え……何、それ。
同じって…え?
もしかして、私の喰い千切った左腕のこと?
「しかし、骨格筋が見える程に断つのは中々しんどいな」
「……」
「君は治るからいいものの、こちらはそう簡単には」
「ッ馬鹿じゃないの!?」
「むっ?」
怒りで体が震える。
てっきり命を差し出されるかと肝を冷やしたのに、同じ箇所に怪我を負うことが対価だなんて。
「当たり前でしょ! 人間なんだから!」
でも私の怒りはそんなことじゃなかった。
そんな簡単に、自分の腕を差し出した杏寿郎の行動に頭に血が昇ったんだ。
「腕を間違えて斬り落としでもしたらどうするの! 杏寿郎の腕は生えてこないんだよ! 馬鹿じゃないの!!」
「む、むぅ…それは加減をして」
「そういう問題じゃない! 後遺症が残ることだってあるのに!」
「しかしだな、けじめとして」
「要らないよそんなの! 覚悟だとかけじめだとか、そんな大層なことはお館様とだけでしてきたら! 私には必要ない! 馬鹿寿郎!!」
「…よもや…よもや、だ…」
息が切れるくらいに怒りで捲し立てれば、目を丸くして珍妙な返しをされる始末。
また頭がぷっつんしそうなんだけど。
よもやはこっちが言いたい!
「まさかそんなに怒りを買うとは思わなかったな…」
「当たり前でしょ…! わざわざ痛い思いをするなんて」
「知りたかったからだ」
すぐ目の前にある杏寿郎の顔つきが変わる。
やんわりと包帯を巻いていた左腕を取られて、勢いが止まってしまった。