第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
しのぶか義勇だろうとカーテンを開けて問えば、微かに開いた扉の向こうの人影が跳ねる。
「ぁ…あの…」
「…君は」
扉の影に隠れるようにして、其処から先には踏み出して来ない。
そうして中を伺っていたのは、しのぶと同じ髪飾りを付けたツインテールの少女、神崎アオイだった。
「大丈夫か?」
「え?」
杏寿郎が最初に問い掛けたのは、部屋へ来た理由ではない。
突然の問いに面食らうアオイに、カーテンを開いて歩み寄る。
「君も火事の被害を受けた一人だろう。何度か此処へ来たが、当日以外は顔を合わせる機会がなかった。体調はもう大丈夫なのか?」
「ぁ…はい。私は、怪我を負っていませんでしたから…」
「それでもここに治療が必要な時もある」
そう言って己の胸に手を当てる杏寿郎に、アオイは僅かに目を見開いた。
恐々と中を伺っていた表情が薄まる。
その僅かだが確かな変化に、杏寿郎はにこりと笑うとアオイを中へ招き入れた。
「此処へ来たということは何か用があったのだろう? 遠慮せずに入ってくれ」
「…薬の補充をしに来ただけですから…」
「そうか、ありがたい」
「失礼します」
本来の自分を取り戻したかのように、手早く持ち込んだ薬瓶を棚に並べていく。
感心するように見守っていた杏寿郎は、作業が終わるのを見計らって口を開いた。
「ありがとう。君や胡蝶のお陰で蛍少女も目覚めることができた」
「…私は特に…ほとんどしのぶ様が治療に応えられていましたから」
「それでもだ。火事から生還したばかりの体で、よく働いてくれた。感謝している」
「それは……というより、いいんですか? 私と話していて。折角目覚めたんですから、その…」
「ああ。蛍少女か? 今は睡眠剤で眠っている」
「そう、なんですか?」
どこか拍子ぬけた様子でカーテンの向こう側を見る。
アオイのその瞳に、杏寿郎は片手をカーテンにかけ再度手招いた。
「なんなら共に顔を見て行かないか」
「えっ」
「俺も蛍少女の容態を色々と訊きたい。少しつき合ってくれ」
炎柱である杏寿郎に誘われれば安易に断ることもできず。
向けられた穏やかな表情を前に、渋々とアオイは頷いた。
「わかり、ました」