第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「目が覚めたと言っても、まだ重症なんです。喉を焼いた火傷も治っていないから会話も少量しかできない。鬼は鬼でも患者は患者。もっと慎重になって下さい、皆さん」
「…俺は煩くしていないぞ」
「さっき言いましたよね自分が教えたって。それが冨岡さんの一番の失態です反省して下さい。ということでもう出て行って下さい邪魔です」
「別に邪魔する気は」
「存在が邪魔です」
「……」
にっこりと綺麗な笑顔で全否定をするしのぶに、義勇は返す言葉一つ与えられなかった。
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
「それに彩千代さんはまた眠りましたよ、煉獄さん。火傷の状態が酷いので、鎮静剤を打ちましたが鬼に治療薬は効き難い。眠った方が楽だと思い睡眠剤を与えました」
「うむ」
「なので顔は見られても結局は寝顔です」
「むぅ」
「……」
「む」
「…小声なら話してもいいですよ」
何か伝えたいことがあるのは、見開いた強い眼力が物語っている。
それでも律儀に言い付けを守る杏寿郎に、溜息混じりにしのぶは許可を下ろした。
「それでも一目会いたい。起こしはしないから構わないだろうか?」
「起きないのなら意味はないんじゃないですか? それなら日を改めた方が…」
「意味はある。蛍少女にではなく、俺自身に」
「……」
「長い時間は取らない。許可して貰えないだろうか」
許可が下った途端に口を開いた杏寿郎は、しかし矢継ぎ早でも豪快にでもなく静かに意見を並べ立てた。
熱過ぎる性格故に突っ走ることもあるが、周りを冷静な目で見て機転を利かせる頭も持ち得ている。
それが煉獄杏寿郎という男。
実弥や小芭内に比べれば、蛍をまだ尊重できる男だ。
「…わかりました。他の皆さんは会っているのに、煉獄さんだけ駄目ですとは言えませんしね」
「! ありがとう胡蝶」
途端に目の色が変わる杏寿郎に、汚れた包帯の詰まった籠を持ちながらしのぶは暗い目を向けた。
「…余り、踏み込まない方がいいと思いますけど」
「何故?」
その闇のように暗い目を見返す杏寿郎に、躊躇や戸惑いなどはなかった。
逆にしのぶが返事を躊躇する程に。