第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「いつから此処にいるんだ」
「そうですね、そんなに長くは…お館様も、オレなら面会を許可すると。なので心配は」
「その心配はしていない。お前は俺達と共にお館様の庭にいた。潔白なのは知っている」
「…すみません」
「何故謝る」
「オレの同胞が…迷惑を」
項垂れるように頭が下がる。
それだけで後藤が何を言わんとしているのか十分に理解できた。
不可解な突然の火事。
そこに最初に違和感を持ったのが後藤だった。
その一抹の不安を読み取った耀哉に問われ吐露した結果、火事を起こした者はただちに見つかったのだ。
地下通路の出口の崩壊も、岩場の火事も、起こしたのは一人の隠の手によって。
「菊池は過去に鬼に許嫁を殺されたことがあって…人一倍、鬼への憎しみが強かった奴なんです…」
「どうであっても彩千代蛍を殺そうとしたことには変わりない」
「そうですが…でも同胞である隊士を巻き込んでしまったことに、あいつも酷く後悔していて」
「それを俺に話してどうなる。お館様は然るべき判断を下した。もう結果は出ている」
「それは…」
「お前ももうその件に関して深追いするな。神崎アオイは負傷しなかった。問題ない。全て終わったことだ」
「…全て、でしょうか」
力無い後藤の目がカーテンの向こうへと向く。
「蛍ちゃんはまだ一度も目を醒ましていないと聞きました。回復力も落ちているとか…」
「…時間はかかるが、いずれ治る。彩千代は鬼だ」
「確かに鬼ですが…それだけじゃないと、オレは思ってます」
「……」
「っすみません、偉そうな口を。もう夜も遅いので失礼しますっまた来ますんでッ」
慌てて頭を下げて部屋を出ていく後藤の姿を見送る。
ぱたんと閉じる扉を前に、義勇は人知れず溜息をついた。
鬼だから問題ないなどと、自分が一番確信を持てずにいることだ。
見てわかる程に再生力の落ちていた蛍。
その体に瀕死にも値する怪我を負ってしまった。
完治させるのに一体どれ程の時間を要するのか。
先は見えない。