第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「いきなり開けたら向こうも吃驚するし。襲われるかもしれないし。ねっ?」
「…ムー」
扉を開けてもらえないのだと悟った禰豆子の眉が下がる。
しょぼんと落ち込む様に罪悪感は募るが、それ以上に守らなければならないのは目の前の命。
誰とも知らない鬼よりも、目の前の禰豆子の方が何十倍も大事だ。
(まさかの鬼殺隊内で死にたくないからね俺!)
勿論、自分の命もである。
──ひた、
「! 禰豆子ちゃん、こっちッ」
「ぅうっ」
常人には聞こえないが、善逸の耳でなら拾える程の微かな足音だった。
誰かがこちらへ近付いて来ている。
そしてそれは炭治郎や伊之助ではない。
善逸は強く禰豆子の手を引くと、振り返ることなく廊下の先へと逃げ出した。
誰もいなくなった廊下に、ひたりと足が覗く。
静かに廊下の角から姿を見せたのは義勇だった。
善逸の逃げ出した廊下の先をちらりと見ると、追うこともなく立入禁止の札が下がった扉へと向かう。
「冨岡義勇だ。入る」
一言添えて踏み込めば、室内には幾つもの蝋燭が灯っていた。
橙色の温かみのある灯りの中で、照らされているのは幾つもの医療器具が置かれた台。水の張った桶。大量のガーゼやタオル。
そしてカーテンで仕切られた寝台の前に立つ、一つの人影。
「…どうも、です」
振り返った頭が静かに下がる。
其処に立っていたのは、隠である後藤だった。
「一人か」
「はい、まぁ…。あ、オレと入れ替わりで炎柱様がいらしてたようですけど」
「…そうか」
カーテンの向こう側の寝台に、微かな気配はある。
しかし其処に寝ているであろう人物が動く気配は微塵もない。
最初こそ目も当てられない程の全身火傷を負っていたが、今ではその顔色がわかる程には皮膚が再生された。
それでも失った両手と他部位の火傷は治っていない。
体内で目まぐるしいエネルギー変換でも起こっているのか、一向に目を醒まさない蛍に杏寿郎は幾度も会いに来ていた。