第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
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春先に行われた柱合会議は滞り無く終了した。
その際に地下牢の火事の出処を、柱達は産屋敷耀哉から聞かされることとなった。
結果新たな問題が浮上はしたが、蝶屋敷ですべきことは既に決まっている。
那田蜘蛛山から救出した隊士達の治療・機能回復訓練。及び、火事により重体となった彩千代蛍の治療とその後の処遇。
しかし後者は難航していた。
「禰豆子ちゃん。起きてる?」
アオイの手により、元通りに復元された漆塗りの木箱。
鍵の掛かっていない戸口を内側から小さな手が押し出す。
ぴょこりと顔を出したのは、木箱に入れるように体を縮めていた鬼の禰豆子。
腰まである長い黒髪は毛先にいくにつれて鮮やかな朱色へと染まっている。
前髪は上げて小さなリボンで結び止めている、幼いながらもはっとするような美少女だ。
「おはよう禰豆子ちゃん。今日の散歩は何処へ行こうかっ?」
蝶屋敷の病棟部屋。
炭治郎・善逸・伊之助と共に、禰豆子の木箱もこの部屋へと置かれていた。
那田蜘蛛山で累相手に激しい損傷をし、尚且つ実弥の刃を喰らった禰豆子は、長時間眠り続けることで回復していた。
ようやく毎夜起きられるようになったのは、炭治郎達がしのぶの命で機能回復訓練を始めた頃。
炭治郎達もまた順調に体を回復しつつ、伊之助の落ちていたメンタルも無事復活した。
禰豆子に対して特別好意を持つ善逸は、毎夜彼女を誘う。
炭治郎も禰豆子が楽しんでいることを知っている為、止めはしない。
「じゃあ行ってくるよ、炭治郎」
「ああ、気を付けて。あんまり遅くならないようにな、二人共」
「ム!」
善逸の手に引かれる禰豆子の口には竹筒の口枷。
炭治郎に応えるように声を上げると、とてとてとその足は廊下を軽やかに進んだ。
「またあのお花畑に行く? それともまたあの金魚鉢を見に行こうか」
「ムー」
「そうだねぇあの金魚可愛かったもんねぇ」
禰豆子の言葉を理解している訳ではないが、全ての生き物が宿す"音"を繊細に聴き分けられる能力を善逸は持っていた。
彼女が最近夢中なのは、しのぶの部屋に置いてある金魚鉢だ。
透明な硝子の中をひらひらと優美に泳ぐ赤い魚達は、すっかり少女を魅了した。