第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「…炭治郎?」
「なんだ?」
「今なんて言った?」
「今?」
「でも確か…の後」
「ああ。彩千代蛍という鬼の」
「鬼ィイ!? やっぱ鬼なのなんで鬼なの!! 此処は鬼殺隊だろ!? なんで!? どうして!? 鬼がいんの!?!?」
「お、落ち着け善逸っ俺もよくわからないし、他にも火事がどうとか」
「は? 火事? 待って火事!? いぃいやぁああ逃げないとォオオ!!!」
「落ち着け! 火事は此処じゃない!!」
再び最初に逆戻り。
激しく狼狽する善逸に、立つことすらできない炭治郎が宥めようと奮闘する。
「此処へ来たってことは、多分その負傷者を運んで来たんじゃないか? 俺達みたいに怪我を負ってたとか」
「そんなのわかってんだよ! じゃあさっきのアレか鬼か!」
「さっきの?」
「あの傷だらけの男が担いでた服の塊!」
慌ただしい様と見知った面々に驚いてしまったが、確かに炭治郎もそれを見ていた。
実弥に担がれていた、上着を重ねて丸めていた何かを。
「鬼の"音"は人と違うからすぐわかるんだよ…アレは絶対鬼だ鬼だよ…なんでこんな所に連れてきてんの? 鬼と一緒に過ごすの俺? やだよ怖い…」
「善逸……禰豆子も鬼だぞ?」
「禰豆子ちゃんは禰豆子ちゃん! 鬼じゃなくて禰豆子ちゃん!!」
「そ、そうか。ありがとう」
すんすんと涙ながらに再び布団に包まる善逸をそのままに、炭治郎もまたスンと鼻を慣らした。
先程廊下から伝わってきたのは沢山の人の匂いだった。
そしてそこに混じり込んでいたのは、鼻を突く嫌な臭い。
(あれは生き物の焼けた臭いだった…軽い火傷なんてものじゃない)
もう誰もいない廊下の先を炭治郎の目が追う。
視界には何も入らない。
しかし其処に僅かに落ちている残り香が、炭治郎に軌跡を辿らせた。