第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「そうだ、あの子確か最終戦別の時にいた…って大丈夫か炭治郎!?」
「ちょっと、もう色々限界で…」
へろへろとその場に座り込む炭治郎に、慌てた善逸が更に雄叫びを上げる。
顔面及び腕・足に切創・擦過傷多数。
全身の筋肉痛に重ねて肉離れと下顎の打撲。
歩くのも奇跡的な状況だったのだ。
それでも力なく笑みを返しながら、炭治郎が心配するのは常に他者のこと。
「それより善逸…伊之助、は? 村田さんは見なかったか?」
「へ? 村田?って人は知らんけど、伊之助なら隣にいるよ」
「え?」
ほら、と隣の寝台を視線で促す。
善逸の視線を辿れば、其処には猪の頭部を被ったまま寝込む伊之助の姿があった。
「本当だ! 思いっきりいた! 伊之助! 無事でよかった…!」
もう這いずる力も残っていない。
善逸の寝台に項垂れたまま、それでも炭治郎は感嘆の涙を流した。
伊之助とは、途中まで共に那田蜘蛛山で異型の鬼の相手をしていた。
途中で鬼の強力な丸太振りの一撃を喰らい、飛ばされ離脱した炭治郎。
結果的に親玉である累と対面することができたが、あの屈強な異型の鬼は伊之助一人に託してしまった。
その心配が常に炭治郎の頭の隅にあった。
二人掛かりでも苦戦を強いられていたあの鬼に、伊之助は勝てたのかと。
「ごめんな! 助けに行けなくて…!」
涙ながらに謝罪する炭治郎に、寝込んでいた猪頭がぴくりと揺れる。
微かにその頭部が炭治郎へと傾くと、被り物の中からくぐもった声がした。
「イイヨ。気ニシナイデ」
「いの…エ?」
いつもは被り物など無意味な程に、粗暴で猛々しい声を発する伊之助。
がしかし今その被り物から聞こえた声は、なんともか細くひょろひょろと掠れている。
同じ人物かと疑ってしまう程の別声だ。
「い…伊之助、か? 声が違」
「なんか喉潰れてるらしいよ」
「ええええッ!?」
何故鬼と対峙して喉が潰れてしまうのか。
真っ青な顔で悲鳴を上げる炭治郎に、善逸は先程の狼狽えが嘘のように冷静に状況を伝えた。
「詳しいことよくわかんないけど、頸をこうガッとやられたらしくて」
「が…ガッと…」
「そんで最後、自分で大声出したのがトドメだったみたいで」
「自分でトドメ?」
「喉がえらいことに」
「ええ…」