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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔



「五回!? 五回飲むの? 一日に!?」


 ひらりひらりと鮮やかな羽根が舞う。
 蟲柱である胡蝶しのぶが主の蝶屋敷には、野生の蝶々が多く生息している。
 庭に咲く花から花へ。
 移り香のようにふわり飛び交う蝶々。

 そんな優美な庭とは似ても似つかぬ悲鳴が、隊舎から響いていた。


「三ヶ月間飲み続けるのこの薬!? これ飲んだら飯食えないよ! すげぇ苦いんだけど辛いんだけど! ていうか薬飲むだけで俺の腕と足治るわけ!? ほんと!?」


 治療に特化したしのぶが仕切る隊舎とあって、蝶屋敷は医療設備の豊富な屋敷だった。
 病棟のように寝台が並ぶ広い室内。
 その一つで、きらきらと輝く金髪を激しく振っている少年が一人。


「し、静かにして下さい〜」

「もっと説明して誰か! 一回でも飲み損ねたらどうなるのねぇ!?」


 わたわたと声を掛ける蝶屋敷の少女にも構わず、涙を滝のように流し声を張り続けている。

 少年の名は我妻 善逸(あがつま ぜんいつ)と言った。
 炭治郎と同じく、那田蜘蛛山で重症を負い柱に助けられた鬼殺隊剣士の一人である。


「善逸ッ!!」

「ギャーッ!?」


 そこへ善逸の悲鳴より更に大きな声が響く。
 名を呼ばれただけだというのに悲鳴を上げて布団に潜り込む善逸に、声は畳み掛けるように問うた。


「大丈夫か!? 怪我したのか!? 山に入って来てくれたんだな…!」

「…た…炭治郎…」


 よく知った声だった。
 感嘆のような響きに、恐る恐る布団から顔を出した善逸の目が涙混じりに見開く。
 其処にいたのは、おかっぱの幼い少女に連れられた少年。
 竈門炭治郎だった。


「うわぁあ炭治郎! 聞いてくれよー! 臭い蜘蛛に刺されるし毒で凄い痛かったんだよー! なのにさっきから怒られるばっかで…!!…って、その女の子…?」

「俺を此処まで案内してくれたんだ…助かったよ」

「もう手を引かなくても?」

「ああ。ありがとう」


 一人で歩くにはまだ覚束無い。
 怪我を負った炭治郎の手を引いて蝶屋敷まで案内したのは、当主である産屋敷耀哉の娘だった。
 母に似た猫目をくりりと向けると、一礼して去っていく。

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