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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第4章 柱《壱》



「全ての生物の血液には、種類系統がある。人の血も、個によって様々だ。その中でも希少価値の高い血が存在する。それが"稀血"。鬼にとって稀血の栄養価は、普通の人の血の何十人、何百人分に値するという。だから稀血は鬼に狙われるのだ」


 だから今まで嗅いだことのない強い匂いがしたんだ。
 まるでご馳走を目の前に並べられたような、そんな強い食欲への誘惑。
 あと一歩遅ければ、私もあの血肉に喰らい付いていた。
 あの不死川という男の言う通り、地面に這い蹲ってむしゃぶりついて。

 そう思うと、ぞっとする。


「…俺は、彩千代少女のことを文伝に聞いた時、真っ先に本部へ戻りお館様に反対した」

「!」


 そう、なの?
 …そういえば当初は反対したって、前に言っていた。


「他の者達もそれが大半で、此処へ足を向けたのだろう」


 だから、この総本部で何人もの柱と出くわしていたんだ。


「何かあってからでは遅い。君は既に人を殺してもいる。更なる惨劇が生まれるのは、目に見えていると」

「……」

「だから君を斬首すると申し出た。それをお館様も認めて下さった」

「…ぇ」


 今、なんて? 斬首?
 …頸を斬るってこと?


「ただし己の心の眼で彩千代蛍という者を視てから、斬首せよと命じられたのだ」


 動揺する私に構うことなく、杏寿郎は話し続けた。
 私の知らない、私のことを。


「"鬼"ではなく"彩千代蛍"を視よと云われた。それができなければ、斬るのは許されないとも。だから俺は此処へ来たのだ」


 じゃあ…杏寿郎は、そのお館様に言われたから?
 自分の意志ではなく、上の命令で来てたってこと?


「……杏寿郎、は…」

「む?」

「仕方なく、此処へ来ていたの…?」


 直視はできなかった。
 俯いて、その真意を恐る恐る問う。


「そうだ!」


 迷いなんてなかった。
 即答の肯定に、ずきりと胸の奥が痛む。


「しかし、それは月見の散歩まで。あの時から、俺は君に興味が湧いた。君のことが本当に知りたいと思った」


 ほんの少し、顔を上げてその表情を伺う。
 杏寿郎が嘘をつかない性格なのは、もうわかっていた。
 それでも、確かめたくて。

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