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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔



 蛍はアオイに何をして何処へ消えたというのか。
 アオイに集う柱達の中で、一人鋭い眼孔がそれを捉えた。

 蜜璃の持ってきた灯りのお陰で、先程より視界は広がった。
 蹲っていたアオイからそう離れてはいない場所。
 其処にもう一つ、炭の塊があった。
 近付けば肉の焼けた臭いが鼻を突く。
 それでも構わず足を進めた実弥は、ようやくその姿を把握した。


「…お前…」


 先程のアオイと同じに人の形をした灰の塊。
 しかしその人型には腕から先がなかった。
 またアオイの体を覆っていたそれとは違い、焼け焦げた痕は赤黒く皮膚の爛れを鮮明に浮かび上がらせている。

 幾重も鬼を葬ってきたからこそわかる。
 太陽光に焼かれた鬼のように、それは体を燃やし尽くされていた。


「──彩千代蛍か」


 初めてその名を口にした実弥に、呼ばれた亡骸はぴくりとも動かない。
 しかし顔を寄せれば、僅かに上下している胸とひゅーひゅーと溢れるか細い呼吸を耳にできた。

 生きている。
 太陽光に焼かれた鬼とは違い、火事の炎は蛍を死へと追いやらなかった。
 しかしその命も今は微かな灯火に思える。


「不死川! 今蛍少女の名…を…」


 後ろから呼び掛けた杏寿郎の声が、蛍を目にすると途切れ落ちる。
 常日頃見開いている双眸が、更に驚きで開眼した。


「おいなんだよその姿…っ派手に死にかけてるじゃねぇか!」

「全身重度の熱傷状態か…酷い」

「う、そ…ほたる、ちゃ…」


 口元に両手を当てて息を呑む蜜璃の横を、足早に義勇が通り過ぎる。
 すぐさま蛍の傍まで顔を寄せると、アオイを守るように立ち遠目から見守るしのぶを呼んだ。


「胡蝶。彩千代を蝶屋敷まで運ぶ。早急に処置を頼む」

「……」

「胡蝶!」

「っ、わかりました。アオイ、手伝って」

「は、はいっ」


「不死川。隠に担架の要請を」

「俺に指図するんじゃねェよ。そんなもん待ってる暇があったらテメェの脚を動かせ」


 屋敷で治療の準備をする為に、先に出口へと向かうしのぶとアオイ。
 同じくして"殺"と書かれた上着を脱ぐと、実弥は黒焦げの蛍へと被せた。


「このまま屋敷まで運ぶ」











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