第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「やはり此処にはいない。奥を探そう」
「ああ。でも灯りがなけりゃな。胡蝶は先に行っちまったが…」
「無理もない。神崎アオイは、鬼殺隊に入った当初から蝶屋敷に仕えていた隊士だと聞く」
「そりゃ無理もねぇな…」
蜜璃以外の女性隊士に興味を示さない小芭内が、声を沈めてアオイのことを語る。
天元との会話の間に生まれる空気は、まるでアオイの死を実感しているかのようだ。
「ならばこの炎を切り抜けているかもしれない。彼女も鬼殺隊の一人だ!」
その空気を払拭するように、声を上げた杏寿郎が臆することなく先へと進む。
「だろう!? 冨岡!」
「愚問だ」
問いに即答した義勇もまた足早にしのぶの後を追った。
「確実なものを見るまでは生死の判断などしない。彩千代も神崎も」
「まあなァ。これくらいでおっ死んでちゃあ興醒めだ。おい鬼ィ! いるんだろ出て来い!!」
珍しくも義勇に同調する実弥もまた、簡単に死など受け入れるつもりはないのだろう。
鬼であるからこそ、こんな事故のような形で死んでもらっては困るのだ。
外光の届かない通路の奥底は暗闇一色だった。
杏寿郎の持つ小さな蝋燭だけを頼りに進めば、義勇の目が小さな背中を見つけた。蝶の羽根を模したような淡い羽織。
「…胡蝶?」
通路の終わり。
胡蝶しのぶが土砂崩れの起きている瓦礫の前に、一人座り込んでいる。
「…ァォィ…?」
その声は普段の彼女からは想像もつかない程にか細く、目の前の何かに呼び掛けていた。
胃の奥がそわりと震えるような、嫌な予感が走る。
僅かな灯りをしのぶの呼び掛けている"何か"に近付け照らせば、その場にいた全員が息を呑んだ。
そこにあったものは黒く大きな灰の塊。
人の焼け焦げた姿だった。
蹲るようにして体を丸めている人の形を成したものが、真っ黒に焦げ付いている。
「アオイ…っ」
しのぶの声が弱々しく震える。
今にも泣き出しそうな声だった。恐る恐る伸びた指先が、黒く焦げ付いた背に触れる。
ざぁ、と砂が流れた。
「え──」
否。
まるで砂が流れるように、目の前の灰が震えたのだ。