第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「皆様! 水をお持ちしましたッ!」
「うむ! 丁度良い所に!」
絶妙なタイミングと言うべきか、水の樽を担いだ隠達が、香夜に引き連れられ合流を果たす。
重い水を手に休まず走り続けた結果、息も絶え絶えな隠から樽を受け取ると、杏寿郎はその場の誰より声を張り上げた。
「急いで消火に当たろう! 皆力を貸してくれ!!」
火事の完全な消火には、迅速な手捌きであっても二時間を要した。
大きな炎を上げていたのは寝具がある檻内だけで、炎は通路の奥底までは手を伸ばしてはいなかった。
それが功を奏したのか、隠達の運ぶ水と柱達による瓦礫で炎を押し消す行為により、やがて炎は姿を消した。
しかし出口を塞がれた通路の中は完全な蒸し焼き状態。
通路の中に下りれば、強い煙の臭いが鼻を突く。
鎮火させた黒い煤の道を進みながら、義勇は息苦しさに羽織で口元を覆った。
「アオイ! アオイ!! 返事をして!」
そんな中、淀(よど)んだ空気も厭わず声を張り上げているのはしのぶだ。
切羽詰まった表情に、捜索の為に中へと下りていた天元や杏寿郎の顔も渋さを増す。
炎は通路を全焼はしなかった。
それでも延々と続く煤の道が物語っている。
人の体を焼く程の熱気が、通路内全域を襲ったのだ。
生身の人間であればその熱気だけでも体は炎を上げるだろう。
焼死していても不思議ではない。
「駄目だ、人影みたいなもんは見当たらねぇな…煉獄、そっちは」
「…光が足りない。灯りが欲しい」
「わ、私急いで持ってきますね!」
駆け足で蜜璃が開けた岩場の穴へと走っていく。
そこに目を向けることも返事をすることもなく、杏寿郎は焦げ付き崩壊した檻の柵を見下ろした。
アオイの命は当然ながら、鬼であってもこれ程の炎を長時間受ければ生死も危うい。
(特に蛍少女は、ここのところ再生能力も下がっていた…よもや──)
最悪な結果に結び付きそうになる。
その思考を無理矢理に切り替えるように、黒焦げた柵から目を逸らした。