第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「大穴が空けば炎が酸素を取り込む。他の者は離れるように!」
杏寿郎の命で他柱が距離を置く。
義勇と実弥の間で刀を抜いた小芭内が、炎を睨んだまま指示を告げた。
「崩壊を極力防ぐ為に斬撃は一度だ。俺が気道を作る。二人で押し通せ」
「仲良く息を合わせましょうってかァ? こいつとは出来る気がしねェなァ」
「俺が呼吸を合わせる。不死川は好きな時に技を放てばいい」
「そういうところが気に入らねェんだよ。自分は他柱とは違うって顔で物言いやがって」
「……」
「都合が悪くなりゃすぐだんまりか! だからテメェは」
「喧嘩しないでぇええ! 蛍ちゃんが焼かれちゃうッ!!」
「アオイの命が助からなかったら全員猛毒漬けにしますよ」
背後から雄叫びのような泣きと、ドスの利いた脅しが被さってくる。
対象的な二人の柱の圧に流石に三人揃って口を噤むと、足元に、脇に、鞘に沿って各々が刀を構えた。
「いくぞ」
シュウ、とそれは蛇の吐き出す息のようだった。
〝伍ノ型──蜿蜒長蛇(えんえんちょうだ)〟
最初の一打は小芭内から。
波を打つ日輪刀から発せられる蛇の呼吸。
まるで巨大な蛇がうねり進むかのような軌跡で、斬撃は地面を削り気道を作りながら岩場に突撃した。
合図などなく、左右同時に跳んだ実弥と義勇が宙から刃を振るう。
〝参ノ型──晴嵐風樹(せいらんふうじゅ)〟
〝参ノ型──流流舞(りゅうりゅうまい)〟
前方に渦を巻くように放たれる実弥の風の波動。
そこに義勇の水流が絡み付くようにしてとぐろを巻き、一つの斬撃となって岩場を突き破った。
大穴を開ける岩場に、炎が逆上するかのように巨大なうねりを上げる。
「皆、下がって」
その炎の柱に向かって静かに型の構えを取っていたのは無一郎だった。
〝参ノ型──霞散の飛沫(かさんのしぶき)〟
音も無く振るわれる刃。
回転を描く冷風のような衝撃が、炎を散り散りに吹き飛ばす。
「やった! 炎が弱まったわ!!」
「俺の出番は地味にナシか…」
四人の柱の手によって巨大な炎はようやく身を潜めた。