第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「そうだね。聞いた通りなら火事の危険性がある。人手は多くなくては。柱達を問題が起きた場所へと案内してあげて」
「カァ!」
「そして君は隠の…佐々江香夜、だね」
「! は、はい…仰る通りです…!」
「火の手が上がっているなら消火の必要がある。隠達を柱の援護として集めるように」
「ッわかりました!」
禰豆子の入った木箱を運ぼうとしていた隠の女性が、動揺と感嘆で身を震わす。
皆が同じ覆面を付け尚且つ大勢いる隠の中で、当主ともあろう方に名を覚えられていたとは。
そうして静かに的確な指示を飛ばす耀哉に、行冥が一歩踏み出した。
「これが不死川の言う通り敵襲であれば、此処を手薄にする訳にはいきません。私はお館様のお傍に待機させて下さい」
「わかった。その心遣いに感謝するよ、行冥。では他の柱達は、早急に現場へ」
ひらりと腕を振るう耀哉に、政宗が縁側から飛び立つ。
「散」
掛け声一つ。
同時に産屋敷邸の庭に並んでいた柱の姿は、一斉に散り消えていた。
「…もしかして…」
「わ、私は隠の収集に向かいますから! 先輩はこの二人お願いします!」
「あっおい…!」
禰豆子の木箱を置くと、隠の香夜もまた駆け足でその場を去ってしまった。
残された後藤の足元には鬼の入った木箱と、息も絶え絶えな炭治郎。
「あの…彩千代、蛍って…?」
「! お前はいい加減黙ってろ!!」
「へぶッ!?」
それでも尚耀哉に質問を投げ掛ける炭治郎に、とうとう後藤の鉄拳が入った。
石頭の持ち主であっても顎の強打は弱かったらしく、今度こそ目を回して撃沈した炭治郎を、後藤は早急に背負い上げる。
「お見苦しい粗相をすみません! すぐに二人共連れて退去しますので…!」
「よろしく頼むよ。でもその前に、」
「?」
緊急の状況でも穏やかな笑みは何も変わらず。
後藤に向けて微笑むと、耀哉は頸を傾げた。
「"もしかして"って、なんのことかな?」