第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「なんだ?」
「あれは…」
何事かと全員の顔が上を向く。
旋回していた黒い影は急降下すると、産屋敷邸の縁側に降り立った。
「藤花! 檻! 火事!」
「火事?」
「それって…藤花の檻のこと?」
単語のみを大声で告げる鴉は、バサバサと羽根を広げ慌てたように何かを伝えていた。
「彩千代蛍! 神崎アオイ! 危険!!」
「む!? よもや藤の檻で何かあったということかっ?」
「火事って言ったぞ、その鴉派手に」
「待って下さい。アオイもいるんですか?」
「あの場にボヤ騒ぎなど起きる要素があったか?」
「大変! 二人共危険ってことよね!?」
「あの鬼に襲われかけて危険という意味にも取れるだろォ」
「え? あの鬼、人を襲ったの?」
「──静かに」
一斉に騒ぐ柱達を、鶴の一声で止めたのは耀哉だった。
炭治郎を問い詰める柱達を止めた時とは違い、そこに穏やかな表情はない。
「君は蛍についてる鎹鴉だね。何があったのか教えてくれるかな」
鳥であっても人の器はわかるようで、鎹鴉の政宗は手を差し伸べる耀哉に恐る恐る歩み寄った。
ひょこひょこと怪我をしたかのような不器用な歩き方をしている様に、耀哉の目がそれを見つける。
「その足に持っている物は?」
差し出した耀哉の掌に、ころりと政宗が鉤爪で転がしたのは一つの玉簪。
「それは…」
いち早く反応を見せたのは義勇だった。
「その簪は彩千代蛍の私物です」
「やっぱり蛍ちゃんに何かあったのよ…!」
「カァ」
「ほら! その子もそうだって!」
「…甘露寺、鴉の鳴き声の意味がわかるのか?」
「わからなくたってわかるわ! 緊急だってさっき言ってたもの!」
「お館様。柱合会議の前にこの場を離れること、どうかお許し頂きたい」
先程とは別の意味で空気が張り詰める。
即座に頭を下げ乞う義勇に、他の者も続く。
「神崎アオイは私の下(もと)の隊士です。離脱の許可を」
「彩千代蛍は我が継子。俺も向かわせて頂きたい!」
「敵襲の可能性がないとも言えねェ。俺も行きます」
「おいおい、柱が四人も欠けちゃ柱合会議も何もねぇだろ! 俺も行く」
「わ、私も…!」