第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「だけど不死川さんも手押し相撲勝負で楽しそうにしてたじゃないっ?」
「楽しくなんかしてねェ」
「えっでも笑ってたわ。蛍ちゃんに負かされも楽しそうにっ」
「負けてねェ! あれはただの事故だ!」
「へぇ〜? 事故ねぇ…ド派手に力負けしてなかったか?」
「秒で壁に叩き付けられていたな」
「うむ! 完膚なきまでの敗北だった!」
「やかましいわ負けてねェッ!!」
握り拳を作って力説する蜜璃以外は、天元も小芭内も白々しいという顔。
杏寿郎の敗北宣言に皆一様に頷く。
あれは誰がどう見ても実弥の黒星だった。
「あれが勝ち星なんて俺は認めねェ。理性を失くして鬼として暴走したあいつなんか!」
「そうなのかい?」
「真実です、お館様」
耀哉に向けては冷静な声で静める。
膝を付き頭を下げると「なので、」と実弥は続けた。
「あれはまだ不安要素が抜けていない鬼。故に監視の強化を求めます」
「というと?」
「腑抜けたことばかり漏らす水柱だけじゃ心許無い。腕が立つも甘さが残る炎柱を師とするのも不安です。故に曇り無き己の目で監視させて頂きたい」
「つまり実弥が蛍の、その不安要素の有無を見定めると。そういうことかな?」
「お許し頂けるならば。…それならば、あの鬼の延命も認めます」
「…成程」
口元に手を添えて暫し考える素振りを見せた耀哉は、微塵も動かず跪いて待機する実弥にやがて目を向けた。
「いいよ。実弥の目は確かに、どんな他者にも揺るがない曇り無き眼だ。初めて私を前にした時もその目は曇らなかったからね。君のその目があれば、私も安心できる」
「ありがとうございます」
「むぅ…お館様が認めるならば致し方ない」
「……」
頷く当主の姿を目にしては、杏寿郎も実弥の提案を呑み込む他なかった。
その隣で沈黙を作る義勇の表情は変わらず、否定も肯定もしない。
「これで九人中八人の柱は蛍を認めてくれた。あとはしのぶ、君だけだ」
予想外の形ではあるが実弥の容認に、皆の目が胡蝶しのぶ一人に集中する。
彼女がここで皆と同じ意に添えば、蛍の命は繋がれる。
「さあ。答えを聞かせておくれ」
優しく促す耀哉に、長く結んでいた口をしのぶは薄らと開いた。