第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「これは私と蛍の間だけで交した事柄だから。他の誰もが知らなくて当然のことだ」
「しかし彩千代蛍の命は、現状自分めが預かっている筈です」
「わかっているよ。それは蛍もね。けれど彼女自身がそれを受け入れた。本人が決めたことだから、義勇であっても第三者がそれを曲げることはできない」
「──!」
初めて深い黒眼が見開いた。
その目で耀哉を捉える。
感情の垣間見える義勇の表情に、耀哉は眉尻を下げて微笑んだ。
「ごめんね、義勇。君との契も大切だけれど、このままでは蛍は生かさず殺さずのままだ。もしかしたらいずれは、あの子の命も危うくなるかもしれない。その前に、はっきりと私達の中で答えを出しておかなければいけない」
「…なら…」
「なんだい?」
「……いえ」
紡ぎかけた言葉を止めて、義勇は押し黙った。
いつもの無表情に沈黙を貫く姿とは違う、沈黙せざる終えない姿。
蛍を生かす為に、己の身は差し出せない。
この命は、禰豆子の為に差し出したのだから。
耀哉との契があったからこそ、そこに迷いはなかった。
しかし蛍本人が望んでしまえば、義勇も手出しはできない。
そんな義勇の姿に今一度ひとつ微笑みを向けると「さあ、」と耀哉はその目を柱全員に向けた。
「君達の答えを聞こうか。彩千代蛍についての、処遇を」