第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「禰豆子の答えは出たね。でもあの子は二年間人を喰らわなかった事実と、兄である炭治郎と共に此処まで生きてきた実績がある。蛍の場合は、その事実と実績はない。だからこの二年間、彼女を見てきた君達に判断を任せたいんだ」
「判断、とは?」
「蛍のことを隠の皆が知ってしまった。これ以上その目を広めない方法はないと私は考えている。それならばいっそ、禰豆子のように彼女を鬼殺隊に迎え入れたい」
耀哉の提案に、柱全員が言葉を止めた。
「だけど蛍には、炭治郎のように一心に繋いだ絆を持つ家族はいない。絶対的な信頼を持つ他の誰かの命によって、生かすことはできない。それは蛍自身もちゃんと理解していたよ。だから私の差し出した手も取らなかった」
しかし驚愕はしたものの、皆静かに耀哉の言葉に耳を傾け続ける。
「あの子は強い。自分の立場を、然るべき心で受け入れられるだけの強さがある。でもその強さの内側には、あの子が耐え続け守っている弱さがあるんだよ。そんな蛍を、私はとても愛おしいと思う」
「しかし、お館様…」
「うん。わかっているよ、実弥」
柱全員が作った沈黙を最初に破ったのは実弥だった。
しかし先程までの気性の荒さはない。
それでも皆まで言わせず、耀哉も彼が言わんとしていることを理解していた。
これは慈悲でも同情でもない。
「だから私は、蛍の処遇についての判断を君達に委ねることにした。私よりも長く間近で蛍を見てきた、君達にね。柱の中で一人でも蛍の存在に異議を唱える者がいるならば、然るべき対処を行おう」
「お館様…僭越ながら、」
「何かな? 義勇」
切腹の意の手紙を音読された時も、炭治郎を伊黒の束縛から救った時も、言葉一つ発さなかった義勇が初めて耀哉に声を向けた。
「その話、自分は聞かされておりません」
蛍の保護と責任を任されているのは義勇である。
それを耀哉とも約束したからこその、問い掛けだった。