第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
焦ったのは、炭治郎と禰豆子を連れて行こうとしていた隠達だ。
鬼殺隊当主と柱が勢揃いする空気に身を置くのも恐怖だというのに、一刻も早く離れたいというのに、この少年はなんと阿呆臭れたことを言っているのかと。
(柱は苦手っつーんだよ! この馬鹿!!)
絶対にこの場では吐き出せない本音を内心叫びつつ、隠の一人──後藤は、尚も炭治郎の隊服を引っ張った。
しかし何処にそんな力が残っているのかと思う程、炭治郎はしがみついた柱から離れない。
まるで磁石のようだ。
「頭突きなら隊律違反にはならないはず…!」
「黙れってのお前本当! 本当お前!!」
「早く指剥がして!」
「それだけさせてくれたら退はぶぇッ!?」
強力な磁力を持つ炭治郎の威勢は、何処からともなく飛んできた小石の散弾によって打ち破られた。
ビシビシと顔に直撃する優しくはない小石の打撃に、どたりと体が柱から落下する。
「お館様のお話を遮ったら駄目だよ」
小石を指で弾き飛ばしたのは、始終ぼんやりと我此処に在らずな顔をしていたはずの無一郎。
彼が動くこととあれば、鬼のことか当主である耀哉のこと。
その耀哉の言葉を遮った炭治郎に、冷たい視線と声は向いたのだ。
ビキリと、無一郎が指先で握る小石に罅が入った。
「もっ申し訳御座いません、お館様…!」
「と、時透様!」
「早く下がって」
「は、はいっ」
「はいィ!」
頭を回す炭治郎を、慌てて後藤が背負い担ぎ上げる。
残された隠が禰豆子の入った木箱を急いで取りに行く。
「申し訳ありません、お館様。会議を進めて下さい」
「ありがとう、無一郎。でも一つ大事な話を流していたからね。それを先にしようか」
「? と申しますと…」
「もう一人の鬼。彩千代蛍のことについて」
その名に、その場にいた柱だけでなく忙しなく去ろうとしていた隠達も目を止めた。
(もう一人の…お、に?)
くわんくわんと揺れる思考の中で、炭治郎もまた耳を向ける。
耀哉は今、なんと言っただろうか。