第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「どんな姿だった!? 能力は!?」
「場所は何処だ!」
「戦ったの?」
「鬼舞辻は何をしていた!?」
「根城は突き止めたのか!」
一斉に炭治郎に向けて矢継ぎ早に問いかけられる。
その威圧に声も上げられない炭治郎は、唖然と柱達を見上げるばかり。
「おい答えろ!」
「黙れ俺が先に訊いてるんだ!」
「まず鬼舞辻の能力を──」
しかし弾幕のような問いは一斉にぴたりと止んだ。
止めたのは、静かに口元に人差し指を立てている耀哉。
「──鬼舞辻はね、炭治郎に向けて追手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない」
耀哉が口を開けば、嘘のように皆一同に静かに耳を傾ける。
それだけでどれだけこの産屋敷耀哉という人物が柱達に慕われているのか一目瞭然だった。
「恐らくは禰豆子にも鬼舞辻にとって"予想外の何か"が起きているのだと思うんだ。わかってくれるかな?」
「…わかりません、お館様。人間ならば生かしておいてもいいですが鬼は駄目です。承知できない」
しかし他柱が口を閉じる中、執拗に否定し続ける実弥がいた。
感情が昂るように歯軋りを鳴らしたかと思うと、抜いた日輪刀を己の腕に走らせる。
皮膚を破る嫌な音が響き、幾重もの傷が走る腕に真新しい殺傷ができる。
「お館様…! 証明しますよ俺が、鬼というものの醜さを!」
「実弥…」
「オイ鬼! 飯の時間だぞ喰らい付け!!」
「!?」
腕から溢れる血を、実弥は禰豆子の入っている木箱に向けてぼたぼたと垂らした。
驚き顔を跳ね上げる炭治郎にも構わず、木箱は忽ちに真っ赤に染まっていく。
「不死川。日向では駄目だ、日陰に行かねば鬼は出てこない」
「…お館様。失礼仕る」
そこからは一瞬だった。
小芭内の意見に木箱を手にした実弥が、ドンっと玉砂利を飛ばして地を跳ぶ。
その身は屋敷内の畳へと駆け上がっており、日陰に移動した中で実弥は再度刃を木箱へと向けた。