第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「ここで切り捨てれば蛍少女の師として面目が立たない。俺はその鬼の妹を視てみたいと思う!」
一度言葉を止めたかと思えば、威勢よく胸を張り高々と宣言し直す。
(ほたる、しょうじょ…?)
知らぬ名に炭治郎が耳を傾ける中、杏寿郎の意見に周りは黙っていなかった。
「この場で蛍は関係ねぇだろ。敢えて流せよ、俺みたいに」
「確かに彼女のことではないが、鬼としては関係している。故に俺自身が納得いかない!」
「そうだとしても、此処では一柱として意見を述べているんですよ。宇髄さんは」
「俺は炎柱だが、同時に等しく煉獄杏寿郎という男だ!」
「だっから、そういう訳にはだな…!」
「駄目ですね、諦めましょう」
「そういう話は後にしろ! 今はお館様の手前だぞ!!」
迷い無き眼で述べる杏寿郎に、天元としのぶが揃って溜息を零す。
そこに苛立ち混じりに罵声を飛ばした実弥が、場の空気を静ませた。
ここで蛍は部外者。
今問題視すべきは、炭治郎と禰豆子のことだ。
「俺は竈門・冨岡、両名の処罰を願います」
那田蜘蛛山で禰豆子を滅そうとしたしのぶを止めたのは、義勇だった。
しのぶは知らなかったが、義勇は禰豆子のことを二年以上前から容認していたのだ。
その為、義勇の審議もこの場で懸けられた。
「では、手紙を」
「はい」
処罰を求める実弥に、耀哉は穏やかな笑みを消さなかった。
耀哉の命で、付き添っていた少女の一人が一通の封を取り出す。
「こちらの手紙は、元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます」
現育手である鱗滝が、元水柱であることは柱の間では有名な話。
その鱗滝が耀哉に向けた声には、柱達も興味を示した。
「【炭治郎が鬼の妹と共にあることを、どうかお許し下さい。禰豆子は強靭な精神力で人としての理性を保っています】」
高い少女の声が、流暢に綴られた文字を読み上げていく。
「【飢餓状態であっても人を喰わず、そのまま二年以上の歳月が経過致しました。俄には信じ難い状況ですが紛れもない事実です。もしも禰豆子が人に遅いかかった場合は、竈門炭治郎及び──
鱗滝左近次・冨岡義勇が、腹を切ってお詫び致します】」